『人間椅子』『芋虫』 江戸川乱歩 読書日記


 ふと思い立って江戸川乱歩傑作集を読みました。私としては初めて電子書籍で買ってみた小説です。手軽でいいですね> ̫<
 特にお気に入りの短編を二つと感想を綴ります。ネタバレには配慮しません。


人間椅子

概要

 美しい作家の佳子は毎朝夫を見送った後書斎へ閉じこもり、机の前に座り、仕事をする。有名な彼女の元へは毎日無数の崇拝者達から手紙が届く。やさしい心遣いのある彼女はそのつまらぬ文句ばかりの手紙も封を切るのだ。その中に、突然、「奥様」という呼びかけの言葉から始まる原稿が目に入る。

感想

 手製の椅子に入り、座る人の感触を楽しみ、顔も分からない女性に恋をするというなんとも奇妙な話です。最初に題名だけ見た時は、人を殺してその皮で家具を作ったという殺人鬼、エド・ゲインを思い出しました。

 面白いと思ったのが椅子の中の世界の恋愛観です。顔が見えないので体の感触や声、匂いで好きになる。ある意味でネット恋愛みたいです。

 そして最後にこの男からもう一通の手紙が届きます。この手紙によって、ただ気味の悪い男のフェチズム的な話だけで収まらない広がりを感じられます。

 椅子に入る男がいる、しかも、自分が毎日座っている書斎の椅子に、なんて話普通はすぐに信じません。しかし、佳子は信じたんです。それはその椅子が男の手紙にある特徴通りで、もしかしたらなんだかぬくもりのような、包まれているような、座り心地の良さを感じていたのかもしれません。

 この話は書かれている通り創作ともとることができるしノンフィクションととることもできます。それが面白い。

 ノンフィクションと考えた場合、二枚目の手紙から男の感情を汲み取ることができます。一枚目の文が原稿に書かれた意味。これは男が佳子に怖がられた場合の保険です。嫌われたくないんですね。二枚目の手紙をすぐに送ってきたのは、男はずっと佳子と一緒におり、佳子をよく理解していたので、怖がられることは分かっていたのかも知れないし、ただどこかで様子を監視しているだけなのかも知れない。狂人のようであって弱い一面もあり人間味があるのです…。


芋虫

概要

 時子は須永中尉の妻である。かつて夫は忠勇なる国家の干城であったが、戦争によって無残な片鱗者に成り果てた。手や足、聴覚、声、思考能力が失われた黄色い肉の塊、あるいは奇形なコマは、彼女の情欲をそそるのである。

感想

 正直に言うと途中まではただ、エロいなあ〜、このフェチズム分かる〜、といったような官能的な視線でしか見ていませんでした。白状。だって分かるんだもん…。

 でもただエロいだけでは終わりませんでした。夫の唯一の世界であった目を潰してしまった時子と夫とのやりとりとも言えないやりとりを読んで、夫が急に、ただ慰めるための道具から、現実味を帯び、人間になったのです。

「ユルス」

『芋虫』 

 真夜中にいなくなった夫を探しに草むらにでた時子は、ただ恋をした男を探す女のように感じました。原初の恋愛を想起させるような、ただの恋愛小説を読んでいるようなドキドキ感です。
 
 しかしそんな折に目に飛び込んできたのは“芋虫”。さっきまでの切なさや甘さ、優しさ、罪悪感が吹き飛んだ。そこにいたのは奇妙な芋虫、肉の塊、もがく人間であった。そして井戸の穴へ、重力のままにボトンと落ちた。すごく印象的でした。

 個人的には江戸川乱歩傑作集の中ではこの『芋虫』が1番好きでした。

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