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読書note番外篇 小鯵の二杯酢漬『猫と庄造と二人のおんな』より

谷崎潤一郎は悪食、もとい美食家である。作品にもおいしそうな料理が登場することがある。
谷崎の『猫と庄造と二人のおんな』を読んだ。本作に登場する印象的な料理をひとつご紹介する。

小鯵の二杯酢漬け。

❝ 阪神電車の沿線にある町々、西宮、芦屋、魚崎、住吉あたりでは、地元の浜で獲れる鯵や鰯を、「鯵の取れ取れ」「鰯の取れ取れ」と呼びながら大概毎日売りに来る。「取れ取れ」とは「取りたて」と云う義で、値段は一杯十銭から十五銭ぐらい、それで三四人の家族のお数になるところから、よく売れると見えて一日に何人も来ることがある。が、鯵も鰯も夏の間は長さ一寸ぐらいのもので、秋口になるほど追い追い寸が伸びるのであるが、小さいうちは塩焼にもフライにも都合が悪いので、素焼きにして二杯酢に漬け、笙莪しょうがを刻んだのをかけて、骨ごと食べるより仕方ない。 ❞

この鯵の二杯酢を庄造は時間をかけて愛猫リリーと戯れながら食べる。
庄造は酢を含んだアジをちゅっぱちゅっぱと吸い、固そうな骨は嚙み砕いてリリーにあげる。
猫が好きなら微笑ましい光景かもしれませんが、嫌いならこの上なくアホらしい。

はるかむかしに『猫と庄造と二人のおんな』を読んだ時、小鯵を焼いて二杯酢に漬けてみたことがある。
アジの南蛮漬けは好きな料理。その変化形と思い挑戦してみた。が、そのときは骨に抵抗を感じた。もう少し酢に漬けていたほうが良かったのかも知れないが、たぶん焼くより揚げてあったほうが食べられそうだ。

小説のなかで、若い福子は肉や暖かい食べ物が好みだから、鯵の酢漬けみたいな冷たくてモソモソした食べ物は好きじゃないという。
わからんでもないがね。


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