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映画『次郎長三國志/次郎長賣出す』(1952)

こんばんわ、唐崎夜雨です

今宵ご紹介する映画『次郎長三國志/次郎長賣出す』(1952)は、マキノ雅弘監督が東宝で撮った『次郎長三国志』シリーズの1作目です。

『次郎長三国志』は村上元三の小説で、幕末の侠客・清水の次郎長とその子分たちの物語。
小説の雑誌連載スタートが1952年の5月か6月で、映画公開が同年12月というハイスピード。

第一部では、清水の次郎長はまだ一家を構えていません。始まりは次郎長もカタギでした。
それが渡世人となり、次第に彼を慕うように仲間が増えていく。そして彼自身も仲間に支えられ成長してゆく。

主人公の次郎長よりは、個性豊かな子分たちが物語を動かして面白い作品にしている。モノクロ映画。

シリーズは人気となり本作以降、第9部まで公開される。実は第10部が撮影されたようだが未公開。誠に、誠に惜しまれる。

あらすじ

清水港の米屋の長五郎は酔って任侠者2人と喧嘩をしてしまう。兄貴と慕う江尻の大熊親分のはからいで、長五郎はほとぼりがさめるまで旅に出る。

長五郎は旅の途中で鬼吉と出会う。鬼吉はイカサマ博打で身ぐるみ剥がされた格好で、これを長五郎が助けてやった。
鬼吉は助けてもらった長五郎の子分になると言い張って一歩も引かない。

2年ぶりに清水に戻ってきた次郎長。江尻の大熊親分の居候の身でありながら、彼を慕って鬼吉はじめ関東綱五郎や大政が集まってくる。

個性豊かなコブンたち

長五郎こと清水の次郎長のもとに集まる子分たちが個性豊かで楽しい。

一の子分は桶屋の鬼吉。
喧嘩の時は自分で入る棺桶を担いで登場する。喧嘩っ早くて血の気は多そうだが、惚れた娘の前ではふにゃふにゃになる。
鬼吉を演じるは田崎潤。
頑固一徹な爺さん役の印象が強かったが、ここでは昭和のコメディアンのように体を張った軽妙な芝居を披露している。

もともと連載小説『次郎長三国志』の映画化を東宝に売り込んだのは田崎潤で、桶屋の鬼吉役を演じたかったからだそうです。

次の子分は関東綱五郎。
喧嘩の使者として次郎長の元を訪れた綱五郎。使者を威嚇することもなくアッサリと返す次郎長の意気に惚れて次郎長一家に草鞋を脱ぐ。
江戸の生まれで拳銃を使う。演じるは森健二。

次に参じたのが大政。
尾張の侍出身。サムライ社会に嫌気がさして出奔。追いかけてきた女房が尾張へ戻るよう説得しても決心固く、次郎長の子分になる。
サムライ出身だけあって剣術は達者、以降次郎長一家の参謀格となる。
演じるは河津清三郎。

そして第一作のラストにひょいと登場するのが法印大五郎。
乞食みたいな法印は笛を抜いての登場。詳しい人物像まではまだ描かれてないが関西弁である。
演じるは田中春男。

彼らの個性を際立たせているのが、方言だと思う。
桶屋の鬼吉は尾張の名古屋弁。関東綱五郎は江戸は神田の生まれ。大政は尾張でもサムライの出身。法印大五郎は関西弁。

そして清水の次郎長の語尾は静岡あたりらしく「〜ずら」という。
方言っていいよなと改めて思う。

次郎長の成長記録でもある

酔っ払って喧嘩をする度胸はあっても、しらふだとちょっと奥手な感じの清水の次郎長。
博打打ちになって、逆に酒はプッツリ絶った。子分が増えて次郎長の人間的成長も楽しみなシリーズとなっている。
次郎長を演じるのは小堀明男。

ほかに主な出演者は次郎長が好きなお蝶(若山セツ子)。まだ娘々して可愛らしい。
お蝶の兄が江尻の大熊親分(沢村国太郎)。
そして大熊親分の子分に張り子の虎造。これを演じているのが浪曲師の広沢虎造。

“ バカは死ななきゃ なおらなぁ~い〜 ”
広沢虎造は映画の節目節目にナレーターのように歌ってもくれている。

モノクロ映画の秘かな愉しみ

夜のシーンも少なくない。
ですが、おそらく屋外で実際に夜間の撮影はしていないと思う。
技術的なことは詳しく存じませんが、疑似夜景といって、カメラの露出やらなんやらの設定で昼間の撮影だけど暗めに撮る。

これが、真の夜よりもかえって夜らしく思えてくる。モノクロだから波打ち際やさざ波のきらめきなど印象的。素敵な月夜に思えてくる。

それからこの映画、ヤクザの喧嘩が描かれますが、思いのほかアッサリしている。チャンバラを主眼に置いておらず、あくまでもドラマ。
それは東宝の作品で、時代劇スターらしいスターが出演していないことにもよるかなと思う。

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