映画『赤い影』(1973)
こんにちわ、唐崎夜雨です。
今日ご紹介する映画は、1973年のイギリスとイタリアの合作映画『赤い影』(英題:Don't Look Now)です。オカルト風味のサスペンス映画といった感じでしょうか。
『赤い影』は、日本では馴染が薄いような気もしますが、イギリスで2011年に選出された「100 best british films」では、キャロル・リード監督の『第三の男』を抑えて第一位に選ばれました。
『第三の男』は好きな映画のひとつです。その『第三の男』を超える映画『赤い影』とはどんな作品なのだろうと思い、鑑賞しました。
物語は、
娘を不慮の事故で溺死させてしまったジョンとローラの夫婦。教会修復というジョンの仕事のため二人はベネチアに滞在していた。ベネチアで二人はある老姉妹に出会う。老姉妹の妹は盲目で、霊感があるようだ。彼女によるとジョンとローラのそばに亡くなった女の子がついていて、少女は幸せそうににしているという。
夫妻はまだ少女の死から立ち直っていないので、老婦人の言葉にローラは癒される心地がした。一方のジョンはいささか懐疑的であった。。。
原作はダフニ・デュ・モーリエ。彼女の映画化された作品では、アルフレッド・ヒッチコック監督の『レベッカ』『鳥』が知られている。
主な舞台は水の都ベネチアで、季節は冬を迎えようとしている。どことなく寒々しい感じのする風景。そんなベネチアに赤い色が鮮烈に映える。
赤い色というのは、亡くなった少女が真っ赤なレインコートを着て溺死したからです。そしてなぜかベネチアの町にも赤いコートの不気味な人物が往来する。それは少女の幽霊か、それとも。。。
ちょうど夫妻が滞在中のベネチアでは連続殺人事件が起きていた。
溺死した少女の死から立ち直りきれない夫妻が水の都にいるというのは運命のイタズラか。ここでの水は死を連想させる。連続殺人の被害者が水中からあげられる場面もある。
またベネチアは道が分かりにくい。イギリスから訪れているこの夫婦にとって路地や水路が交錯する都市空間は退廃的な迷宮である。
監督はニコラス・ローグ。監督としてはデヴィッド・ボウイ主演『地球に落ちて来た男』などがある。もとは撮影の出身でデヴィッド・リーン監督の『アラビアのロレンス』にも参加している。映像は凝っている。
映画の冒頭で、娘が庭で遊んでいるショットと、家の中にいる夫婦のショットが交互にきり返され繰り返される。
監督は、二つのシーンを交互につなげるカットバックの手法がお好きなようだ。
夫婦のセックスのシーンでは、性交中と性交後のショットが交互に切り返され鵜。裸の男女、服を着る男女、裸の男女、着衣の男女と交錯する愛の表現はユニークだなと思う。
その意図は正直よくわからない。夫婦間はとても良好でも、若い頃のような余韻はなく、終わったらサッサとメシでも食いに行こうかってなモンにも思える。ちょっと倦怠期ってヤツですかね。
さて、降霊術により盲目の老女は、亡くなった女の子から言付かる。それはジョンがベネチアに居てはいけないというものである。ベネチアにいては死ぬという。
ジョンには、本人は意識していないようだが霊感があるようだと老女は見抜く。霊感と言えるか分からないが、予知能力はあるらしい。
それにより不可思議な体験をジョンはするが、本人に自覚がない。自覚がないから、せっかくの予知能力も自身の危険回避には役立っていない。
さて老女の言葉は悪魔のささやきか、天使の予言か。あるいは本当に亡き娘からの警告か。殺人事件の行方もからんで、果たしてジョンの運命や、いかに。。。
なるほど、だから“Don't Look Now〔いまは見るな!〕”なんですね、という結末へ。
最後にちょっと付加すると、1999年に英国映画協会(British Film Institute、BFI)が選んだ「BFI Top 100 British films」では『赤い影』は第8位。
こちらは『第三の男』『逢びき』『アラビアのロレンス』がベスト3にランクインしている。
ベスト映画と称されても撰者による。拙にはBFIのセレクトのほうが肌なじみしそうだ。邦画でも1950年代60年代が多く、70年代になるとちょっと調子が狂う傾向にある。
赤い影(1973)
Don't Look Now
監督:ニコラス・ローグ
脚本:アラン・スコット、クリス・ブライアント
原作:ダフニ・デュ・モーリエ
撮影:アンソニー・B・リッチモンド
音楽:ピノ・ドナッジオ
美術:ジョバンニ・ソッコロ
出演
ドナルド・サザーランド … ジョン・バクスター
ジュリー・クリスティー ... ローラ・バクスター
ヒラリー・メイソン:ヘザー、老姉妹の妹
クレリア・マタニア:ウェンディ、老姉妹の姉
マッシモ・セラート:司教
レオポルド・トリエステ:ホテルの支配人
レナート・スカルパ:警部