#096 フランスの村々へのスケッチ旅
ニースからパリに向かうバスの車窓から小さな村がいくつも見えた。村には古い教会があり、周辺にひっそりと集落がある。家々の窓には鉢植えされた花が並んでいる。人口は数百人といったところか。ああ、こんな村に滞在して絵を描くことができたら、どんなに幸せなことかと、走り続けるバスから降りたくなった。
その村々に行く。カレナック、エスタン、コンク、そしてル・ピュイ。
ル・ピュイの道はフランス国内4大巡礼路で最も美しいとされている。
バスの車窓から眺めた、あの村々。そこに滞在して絵を描く。ときに村人と交流しながら一日を過ごす。もうすぐ夢が叶う。その幸福感を日々味わっている。
昨年のスケッチツアーでは、一つの目標を定めた。それは、スケッチをするとき、描くところと描かない(省略する)ところを決めること。これが難しい。4日間滞在したスカンノではじっくりと取り組むことができるものだから、魅力的な光景を目の前にした私はあれもこれもと欲張り、結局軽重を考えずに目の前のものを全て描いてしまった。結果、一枚描き終えると、心身共に疲労してしまい、何がテーマだか分からない絵を見て、絵を描くことが嫌になりそうだった。
今年のスケッチツアーでは4つの村に行く。滞在時間が限られているので、昨年のように一枚の絵をじっくりと仕上げるという描き方はできない。そこで、今年のスケッチツアーでは、スケッチをする旅を楽しんでこようと思っている。「スケッチ」を楽しむのではなく、「スケッチをする旅」を楽しむのだ。
具体的にはこうだ。
◆一枚の絵を30分で仕上げる。(構想5分・ペン画10分・着彩10分・微調整5分) 時間がきたら切り上げる。クロッキーのような感覚。
◆出来が悪くてもOK。次があるさ。ケセラセラ!
◆スケッチブックはF0またはF1と小さめ。小さいから目の前のもの全部を描くことはできない。諦める勇気を身に付ける。
◆旅の記録のようなスケッチブックを作る。
◆絵画の技術的なものはあまり追求しない。描けるところだけ描き、塗りたいところだけ塗る。
◆使う筆は簡易的な水筆。
古山さんからは、「そんな絵を100枚描いても上達はしない」「水筆なんか使うと下手になるだけ」と言われそうだが、旅のあり方として一度体験してみたい。技術的な上達は勿論私も望んでいる。しかし、それは別の機会で取り組むことにすればいい。旅を苦行にしてはならない。私には、楽しいからと、自分を苦行に追い込んでしまう癖がある。悪い癖だ。この悪い癖を直すためにも、「スケッチをする旅」を楽しんでこようと思っている。
9月25日、羽田からフランスに旅立つ。