古くてあたらしい仕事
January 3, 2020
昨年の今頃から『月の本棚』を携えて、地元の書店やカフェ、バルなどに営業に行く書肆梓の小山さんに同行したり、トークイベントに出演したりした。『月の本棚』はレフェクトワール(当時ル・プチメック)のサイトから生まれたブックレビューだ。そのとき思ったのは、生産者から直接小麦を買って自分で挽いてパンにするパン屋さんのことや、地元で採れた野菜で料理をつくる料理屋さんのことだ。
書店が街から消えていく。わたしの街でもこの数年で何軒もの書店が消えた。消えては困るから、なるべく地元の書店で本を買う。その本のレビューを書いたものも少なくない。それをまとめて本にしてその書店に持って行き、文芸書のコーナーに積んでいただいた時には感動した。わたしの本はガイドブックか食のコーナーにいくことが多く、読み物の場所に置いてもらえるのは初めてだったので。並べる本をセレクトする書店員さんの目が光ったのはたぶん、目次に並ぶタイトルに見おぼえがあったからだ。昨年の、ほんとうに嬉しい出来事のひとつだった。小さな循環。循環する農業みたいな仕事ができたら、といつも考えていた。
この本も、その書店で手にした。
ひとり出版社を営む島田潤一郎さんの本。本にかける想いに、同じように考えている人を見つけた気がして、うれしい気持ちになる。
本読むことは、音楽に耳を澄ませることは、テレビの前でスポーツに熱中することは、現実逃避なのではない。その世界をとおして、違う角度から、もう一度現実を見つめ直すのだ。あるいは、そうした虚構なフィルターをとおして、悲しみやつらいことを時間をかけて自分なりに理解するのだ。
必要なのは、知性ではなく、ノウハウでもなく、長い時間だ。現実に流れる時間とは異なる時間を、自分以外のどこかに求めること。そうすることで、生きることはだいぶ楽になる。
わたしも、そういう本を大切にしている。ハウツー本ではなく、自己啓発本ではなく、ずっとそばに置いて、時々眺めたり、読み返したりしたい本。「よし、やるぞ!」ではなく、月を眺めるようにぼーっと果てしない気持ちになれる本。チカラを抜くことはチカラをいれることより難しい。緊張より弛緩。きりきりと締めるのではなく、ゆるゆると漂うように。そして、朝に夕に目に触れる時に、美しい本。
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