あのころのあの家の記憶
前回書いた江國香織の『シェニール織とか黄肉のメロンとか』で老女がふと思ったこと、その何気ない2行が物語の本筋とは無関係に、わたしに生まれ育った家を思い出させた。ある香りが特別な記憶を思い起こさせるみたいに。そのセンテンスの寂しさは、澄んだ水に投げ入れた小石のように、つめたく沈んで底に落ち、ゆらゆらと輝いた。
わたしが生まれ育った家は二度建て替えられて、いまは妹家族が住んでいる。リビングにはあのころ祖父の部屋にあった方形の座卓が置かれている。妹はそれを気に入って今でも使ってい