ファシアのリリースについて。

以前アメブロでブログを書いていた時にファシアのリリースについていろいろと考察していました。その後、FC2ブログやこのNoteでは一切それらを紹介してこなかった理由は、このブログの読者ならおわかりのように「ファシアの(いわゆる)リリースは他動的手技ではできない」からと結論付けたからであり、未だにそれを信じているからです。ただ今回、私の治療家人生で最も影響を与えた人の一人のJulian Bakerの最近出た本の中での記事について思うところがあったので、過去のブログをさかのぼってまた紹介します。それは「ボーエンテクニーク」について紹介したブログです。

ーーーーー(以下過去のブログを多少の変更とともに引用)ーーーーー

今回のシリーズではBowen technique (Bowen therapy, Bow tech) をとりあげます。創始者のTom Bowen氏の簡単な紹介、基本的な治療法(ムーブ)から、我々、鍼灸師、あん摩マッサージ、指圧師、理学療法士、柔道整復師などの方々が取り入れられる要素が多々あるのではないか?と思い、ここで皆様と情報を共有したく思います。

1, (超ざっくり、倉野の解釈を入れた)Bowen Bowen氏の歴史

1916年オーストラリアで生まれたTom Bowen氏は、どうも何かしらの医学教育を受けたようではなく、自分自身で解剖学の本などで勉強しつつ、完全に自己流の「マッサージ的」な手法で数多くの患者を治療していたようです。Tom自身は1年で13000人もの人を治療したと言っているようです。またTom自身はオステオパスとして登録すべく、オステオパス教会に申請しましたが、もちろん却下されたようです。1年で1万3千人もの人を治療したということは、単純計算で1日に35人強の人を治療していたことになり、もしそれが本当であれば、1時間1人の治療をしていたようではなく、また予約制もとらず来た人順に治療をしていたようです。「完全自己流」「一度に数人の患者を治療」の2つの事からクライアントを治療したあと「Break(治療者は1回ないし数回のMoveを施した後、患者を部屋に1人にして立ち去る」というBowen techniqueの代表的な特徴の一つというのが自然と生まれたのではないでしょうか?

2,Bowen Technique (therapy)とは

何をもってBowen Techniqueと呼ぶか?は、調べてみると多くの本で一致しており、それは以下の4つの要素があればBowen Techniqueと呼ぶそうです;

1,Bowen Technique独自のMove
  Moveとは手技のことで具体的なことは後で説明します
2,Stoppers(ストッパーズ)         
  ストレス、テンションがたまりやすい場所を治療するかどうか
3,Break          
  1回ないし、数回のMoveの後に”休憩”を入れること
4,他の治療と混合しない   
  Bowenを受けている時は患者は他の治療法は受けない

3,Bowen technique独自のmove(手技)について

BowenのMove(手技)には3つの特徴があり、

1, Skin slack(皮膚をずらす)
2, Eyeball pressure(自分の眼球を押した時に不快に思わない程度の圧)
3, Rolling type move(転がすような動き)

です。倉野流に解釈をいれて簡単にいうと、指を皮膚にあて、手前に(あるいは奥の方向に)指をずらし(手前に引き)、軽い圧をいれながら転がすように奥の方(手前)へずらす、というMoveになります。

言葉で説明するのは難しいので、以下のyoutubeのリンクなどを参照してみてください。英語ですが指の動きだけ見ればだいたいの感じがわかると思いますので適当に飛ばして見てみてください。

要は、私から言わせると「素人がマッサージの真似事をしたらそうなる」手技です。しかし、なぜそれが効果的とされるのか?などの考察は後ほど。

4,Break

おそらく軽いタッチとBreak(手技と手技の間にいれる休憩)がBowen techinqueってどんな治療?を表現するときにでる代名詞ではないでしょうか?たとえば、背部に数回のMoveを施したあと、施術者は部屋を出て、数分から十分程度、患者を1人にします。で、また部屋に戻ってきた後、例えばハムストリングスにMoveを施したあと、また部屋をでて・・・・というのを数回繰り返します。ではなぜそのBreakが必要不可欠なものなのでしょうか?私が想像するに、Tom Bowen氏は一度にたくさんの患者を治療しており、ちょっと刺激を与えたあと、患者を休ませている間に他の患者をついでに治療したとしてたのではないでしょうか?おそらくTom自身はBreakの必要性と効果を感じていたわけではなく、たまたま複数の患者を治療していきながら自然とそうしていた、のではないでしょうか?私が親しくさせてもらっているイギリスのBowen techniqueの学校の先生Julian Baker氏は、その”Break"の重要性を「治療者の施したMove(手技)を患者が脳で理解するために必要な時間」と解釈しています。

たしかに、たとえば1時間ずっとマッサージし続けると、受けて(患者)はすべての手技を脳で理解しているはずはなく、もしかしたら多くの無駄な手技が行われているのではないか?との推測も成り立つのではないでしょうか?以前のブログでも紹介しましたが、外部からの刺激を”治療上必要な特別なもの”として患者の脳(網様体)に認識させないと、せっかくの治療上の刺激が”無駄なもの、関係のないもの”として処理されてしまうのではないでしょうか?椅子に座っている時に、例えば、臀部に上半身の全体重がかかっています。もしかしたら普段受けるマッサージよりも強いかもしれないほどの圧が。なぜ臀部が硬くなったり、あるいは逆に凝りがリリースされないのでしょうか?

5,Procedure (各治療法)

Bowenにはいくつか患者の症状にあわせたProcedureがマニュアルのように存在し、学校ではそのProcedureを学びます。

page one, page two, page three, ankle, breast, coccyx, diaphragm and respiratory system, elbow, hamstrings, kidney, knee, pelvis, shoulder, TMJ...

以上の具体的な場所、そのMoveの方法はBowenの学校に通うか、本などで勉強してください。

6,light touch(軽い刺激)とファシア

で、ここからが実は本題なのですが、Bowenの超軽いタッチでなぜ”治る、治った”とされるのか?おそらく日本人なら、マッサージ院に入って、何も説明を受けずにBowen techniqueを受けたら、全員が「おいっ!こらっ!院長だせ!金返せ!」と激怒するでしょう。Julian Baker氏はBowenの軽いタッチがなぜ効果的なのかを、解剖実習を通じて考え始め、「おそらくファシアのリリースに効果的な手技なのではないか?」と考えるようになり、ファシアの治療の重要性を説いてきました。もちろんBowenの創始者のTom Bowen氏もファシアの重要性には当時気づいておられませんでした。その後、他のBowenの学校でファシアとBowenの関係を教えられるようになったようです。以前のブログでも紹介していますが、まずファシア、特に浅層ファシアsuperficial fasciaにはviscosity(粘度)があり、急激な外部からの刺激に対してviscosityが上がり(ファシアが硬くなる)、体の神経、血管、筋肉、骨を守る、という役割があります。つまり、世界中で行われているであろう”強いマッサージ”は浅層ファシアをどんどん硬くしてしまっているであろう、と推測できます。また、Bowenの”rolling type move”は(Robert Schleip氏曰く)ルフィニ終末を効果的に興奮させることができ、自律神経に影響を及ぼします。最後にこれも以前のブログで紹介しましたがBowenの軽いタッチMoveが「Interoception」への影響が強いこと。

以上の3つがBowenのMoveの”肝”ではないか?と私、倉野は考えています。

7, Bowenは効かないと批判し、他の治療法を勉強する人たちの共通点

では、Bowenは他のどの手技よりも優れているのかどうか?FacebookのBowenのグループでは日々「○○に効果があった!」と骨格筋の痛み以外の症状にもかなり効果的と書き込まれています。しかしその一方で、患者の満足感が得られないのと、効果が見られないために他の治療法を学ぶ人も多くいるようです。何人か、実際にそのような人達を知っていますが、決まって「呼吸器系の問題があるから、呼吸器系へのMoveをする」とか、「坐骨神経痛だからハムストリングスのMoveをする」とか”方程式”のようProcedureを用いており、なぜその症状が起きたのか?を考えずに治療している人たちばっかりです。これは、鍼灸マッサージの世界でも同じではないでしょうか?

8,Bowenから鍼灸マッサージ師が学べること

最後に、Bowenをこのブログで取り上げた理由をまとめてみると、今まで私がブログで書いてきたように「深層筋治療」ができないと一流の治療家じゃない、という日本での風潮に異議を唱えたかったこと。Bowenの軽い刺激(interoceptionへの刺激)とBreakは一度に数人治療している経絡治療系の鍼治療などと同じことをやっているのではないだろうか?という推測と、それをマッサージで応用できるのではないか?ということ。たとえばマッサージだとどうしても1時間に1人というように、治療院の経営上の問題がおきてしまいます。売上をあげるには治療費をあげるしかないが、治療費をあげると患者さんが来づらくなる・・・。

そこで、BowenのBreakをうまくつかうことで、治療効果が上がるだけでなく、一度に複数の患者さんを治療することができるのではないか?そして、どんな流派、手技療法であれ、”症状ではなく、その人を見て”治療をすることの重要性をもう一度みなさんと考えたかったからです。

参考文献
[Bowen Unravelled] - a journey into the fascial understanding of the bowen technique-   by Julian baker, Lotus publishing
[The Bowen technique] by Julian Baker, Corpus publishing
[Fascial Dysfunction] by Leon Chaitow, Handspring publishing Limited

ーーーーーーーーーー

今読み返すとツッコミどころがいろいろあって恥ずかしいですが、ほぼ当時のブログのままコピペしました。で、ここからが本題なのですが、Julianはボーエンテクニークを説明する時によく

「患者さんが治療室を出る時に痛みがどうなっているかには興味がない。次に来た時にどうなっているかが重要だ!」

と言っていました。その裏には患者さんの中には「いったいこのボーエンセラピストは何をやったんだ?」と疑問と不満で帰宅する人が多い、とのことも含まれると思います。またJulianは問診はかなり丁寧に行うようで、例えば患者さんが2回目に来院したとします。で、その患者さんが「まだ腰が痛い!」と訴えてきても綿密に話を聞き出し、例えば前回はここまで車の運転してくる時ですら腰が痛かったと言っていたのに、今回は車の中では痛みを感じなかった、など日常生活の中での変化を一緒に見つけ出します。そして以前とは「変わった」ということを患者さんに認識させるようです。この話を慎重に綿密に聞き出し、日常生活上での微妙な変化を聞き出すってBPSモデルに基づく治療に多少なりとも関係あるんじゃないの?と思ったりもしています。

ではJulianは「リリース」についてどう考えているのか?以前Julianと話した時は強くマッサージしたり鍼をしたりストレッチをしたりして筋肉(ファシア)をリリースするのはできない、と言っていましたが、今はどう考えているのか?最後に会ったのは2017年だったので、最新の考えは知らなかったのですが、つい先日でた書籍の中でJulianが記事を書いていたのでそれを紹介します。その本とは「Movement integration」(Martin Lundgren, Linus Johansson著)Lotus publishing社 です。

ここから先は

965字
このマガジンを購入すると、更新記事はずっと追加料金なしでよむことができます。またコメントもできますので、書籍とは違い、読者とのインターアクションも積極的に行っていきたいと思います。よろしくお願いします。

ファシアについて徒手療法家が知っておくべき情報を随時更新していきます。またファシアに限らず徒手療法に関する事柄も随時追加していきます。

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?