出店者紹介【ルーティトゥーティ農園】
倉原悠佑さんの農園を訪ねたのは9月の初旬のことでした。「今はちょうど端境期で、畑、寂しいんですよ」と言いながら、娘の小夏ちゃんと一緒に自宅裏の小さな農園を案内してくれました。「これは日本在来の〈翡翠なす〉。生育がとてもゆっくりで、なる量も少ないんです。肥料も使わずとなると一株につき数個取るのがやっと。でも翡翠色も形も、虫と共生するからこそついた小さな傷も含めて、植物として魅力的です」。そう話す悠佑さんは、不耕起栽培で固定種や在来種の種を紡いで育てています。
就農は2年前。それまで勤めていた児童福祉の仕事を辞め、父が使っていたハウスや耕作放棄地を借りて「自然に任せながら自分のペースで」農を始めました。「幼い頃から植物や虫が好きでよく観察してました。自然に慣れ親しむことを楽しんでました。農家をやっている今と、保育園で自然遊びや菜園をやっていた時とではあまり変わらないかな。子供がいて、食を作ってて、自然な流れというか全部繋がってて。地続きだと思ってます。まだまだトライエラーばかりですが、このペースがちょうど良いんですよね僕にとって」
初夏には、分園した無農薬のハウス栽培でミニトマトやゴーヤを収穫します。「ゴーヤはアブラムシの大好物です。その繁殖力にはリスペクトすら感じますが(笑)」。とはいえアブラムシの繁殖のスピードは人間の想像以上。悠佑さんは朝夕の気温が変わる時間を見計らって、虫かごを片手に〝あるもの〟を探して野原を散策します。探すのは〈てんとう虫〉。肉食系の〈ナナホシテントウ〉は成虫はもちろんですが、幼虫も成長の過程でたくさんのアブラムシを捕食します。
「てんとう虫は、朝一番の太陽の日差しを受けて、朝露が少し蒸発した頃に一斉に動き始めるんです。気温が上昇すると日陰に移動するので日中はほとんど見かけません。そして再び日が沈む前に少しだけ活動して、太陽が山に隠れた途端に一斉にいなくなるんですよ」。「野菜も植物もアブラムシもてんとう虫も本当に奥が深い。〈自然〉とゆっくり対峙してみると、見慣れたてんとう虫も厄介者のアブラムシも、ユーモアに溢れた素晴らしい生き物であることに気づくんですよ。農薬使うなんて勿体なくって」
昨年、小さい頃からの憧れだった〈民族〉や〈民藝〉に触れるためアフリカを旅しました。充実した時間を過ごし、帰国した彼は「自分が暮らすこの地域のことをもっと知りたいと思った」と言います。資本主義のただなかにありながらも、孤島のように、それとはまったく違う形で営まれている場所から〈共生〉を考えてみる。家族やご近所、顔の見える人、目を凝らせば気づく自然の生物や作物の営み。そこへと今、悠佑さんのまなざしは向かっています。
端境期の畑を後にするとき「アーティチョーク、リスペクトで骸を残してるんです。自然の造形ってすごいなって。株が大きくなって、鱗のようなガクに縁取られた薄紫の花はまるで繊毛のよう。葉っぱはシルバーで、枯れた立ち姿すらカッコよくって、食べておいしくって、もうずるいなって」と話す顔は、まるで子どものように輝いてみえました。