【NZ北海道羊協力プロジェクト】日本の羊文化を守っていくために
以前、「ニュージーランド(以下、NZ)北海道酪農協力プロジェクト」について、少しお話ししたかと思います。
https://note.com/farmage/n/n7e9db95a76cd
北海道の酪農家に先進的な放牧ノウハウを取り入れてもらうことを目的とし、2年間の徹底的な調査と2年間のコンサルを行った結果、農業所得が3倍、労働時間が3分の2になったという内容です。
今回は、その羊バージョンとして現在も進めている「NZ北海道羊協力プロジェクト」について、簡単にご紹介させていただきたいと思います。
羊が足りない!
そもそも国内の羊産業が現在どのような状態であるか、ご存じでしょうか。
まずは、北海道庁が発表しているデータから見てみましょう。
つまり、羊肉や羊毛の需要は依然として高いにもかかわらず、国内の羊は減る一方で、生産が全く追いついていないということです。現在、羊肉のほとんどはNZとオーストラリアから輸入されています。
ではなぜ、日本の羊は減っていくのでしょうか。
考えられる原因は以下の通りです。
・羊に関するビジネスが少なく、新しく羊を飼う動機がない
・羊の飼養や研究のための設備がほとんどない、薬も揃っていない
・血統が近すぎて交配が成立しない
ゆえに、そもそも産業として成り立っていないというのが正直なところです。生産者の方々はずっと頑張っているものの、それを取り巻く環境がアップデートされていない。
行政に「なんとかしてほしい」という声が届くことも多いそうなのですが、なにせ研究が進んでいないため、行政側も課題を解決するための手段を持っていません。
私も、日々の仕事を通してそういった厳しい現状を目にしており、なんとかしたい、なにか手助けができないだろうかと思いを募らせてきました。
そんな中始まったのが、NZ北海道酪農協力プロジェクトでした。
放牧先進国であるNZが持つ情報力や行動力はやはり大きく、これまで太い根を張ってビクともしなかった日本の酪農が、ようやく少しずつ変わり始めるのを感じました。
その様子を見ていた茶路めん羊牧場の武藤さんが、「羊でも同じことをやってほしい」と道に相談。
その後、道庁からの依頼を受けて、「NZ北海道羊協力プロジェクト」は実現しました。前例があったこともあり、かなりスムーズに話がまとまっていった印象があります。
NZ大使館、アンズコフーズ、ファームエイジが主催となり、北海道と北海道めん羊協議会にご協力をいただいて、現在もリモートを中心に鋭意進行中です。
出航、難航、どうにか進む
私たちはこのプロジェクトにおいて、まずはっきりとした目標を立てるところから行いました。
・北海道の羊を増やし、10万頭を目指す
・放牧羊の大敵である、寄生虫の問題を解決する
・きちんとした放牧指導を行って、利益を高める
以上の3つを掲げています。これらがクリアできれば、国内の羊生産は徐々に安定するようになり、流通などの次の段階に進むことができます。
もちろんNZ側は流通販売のノウハウも持っていますから、軌道に乗せることさえできれば、そのまま強力な産業構造を作っていけると考えました。
モニターファームになってくださったのは、えこりん村、松尾めん羊牧場、茶路めん羊牧場の3か所です。NZの放牧コンサルの協力のもと、徹底的な調査と放牧指導を行います。
が、プロジェクトが発足してすぐの頃、少し困ったことになりました。
羊の飼育というものは、牛や豚ほど設備・ノウハウが整っていないため、ある種の「手づくり」に近くなる傾向があります。
つまり、牧場や地域ごとに、その場所に合わせた独自の方法が編み出され、独自に進化しながら運営されていることが多いのです。
そんな環境に、外部のコンサルから指導が入る。
その結果何が起きるかというと、まあ……反発されますよね。
いくら国家主導のプロジェクトとはいえ、生産者の方々にも譲れないものはあります。アドバイスをしてもなかなかその通りに従っていただけないということが、何度か起こりました。
これにはコンサルの方もご立腹で、「やってられない」と匙を投げられそうになることもしばしば。
どちらの気持ちもよくわかるがゆえに、その間を取り持つ役割を任されている私たちの頭は痛くなる一方でした。対話に対話を重ねて、どうにか折り合いをつけながら進めるしかありません。
ですがこの状況も、牧場の成績が良くなるにつれ、少しずつ改善されてきたように感じます。
具体的には、分娩の事故率が減った、群分け管理が進んだ、正しい放牧管理で羊が健康になった、水設備の改善で病気のリスクが抑えられた、など。
これにより、徐々に「もう少し信頼してみてもいいかも」と思っていただけるようになってきたのかなと考えています。
羊についての国内の先行研究が少なく、比較するためのBeforeのデータが無いため、酪農プロジェクトのようなわかりやすい成果発表がなかなかできないのですが……少なくとも現場の方にはかなり喜んでいただけるようになりました。こちらも一安心です。
課題に自ら手を挙げる
そんな羊プロジェクトも、今年で4年目に突入します。
残る課題は、「種」についてです。
国内の羊の頭数が減るにつれ、血統がどんどん近くなり、繁殖障害が起きて、さらに頭数が減る。この負のループを断ち切らないことには、プロジェクトの成功は見えてきません。
生体の羊を北海道が海外から輸入することもありますが、1頭あたりの価格がかなり高くなるため、年3頭ほどが限度のようです。
やはり、海外から羊の新しい凍結精液を輸入し、希望者のもとにきちんと行き渡らせられる環境が必要だと、私たちはそう考えています。
そういえば、以前も牛に関して似たような事例をお話ししましたね。
https://note.com/farmage/n/n7ea756a8bcaa
ということで、今回も名乗りを上げました。
ファームエイジはこの度、めん羊の凍結精液の輸入代理店としてご登録いただきました。国内の羊産業のさらなる発展に向けて、これからも真剣に取り組んでいきます。
このことが社会に直接与えるインパクトは、ごく小さなものだと思います。そもそも国内の羊が存続の危機に瀕していること自体、全く知らなかったという方も多いのではないでしょうか。
しかしこれは、今後の畜産の方向性、持続的な農村のあり方などに実は密接している事柄です。新たな取り組みの効果はこれからジワジワと、様々なところで芽吹いていくことでしょう。
ちなみに、小社の社屋に併設されているデモファームでも、2021年6月から羊の飼育を始めています。飼い方はもちろん放牧です。
そして2022年4月には、3頭の親羊がそれぞれ2頭ずつ仔羊を出産しました。
6頭の仔羊たちは、母乳、発酵アルファルファ、春の若草を上手に食べ分けながら、みるみる育っていきました。
草由来の栄養のみでかなり理想に近い大きさまで増体したということで、またひとつ、放牧の真価が実証できたのではないかと思っています。
そして秋口にはそのうちの5頭を食肉加工していただき、正真正銘のグラスフェッドラム(生後8か月)として社内販売を行い、社員一同で感謝しながら頂きました。
また、毛皮と羊毛もそれぞれ加工をお願いしたところ、大変質の良いものに仕上がりました。会社としてどのように使っていくのがよいか、現在考えているところです。
仔羊たちには名前まで付けていたため心は痛みましたが、その分、余すところなく頂き、資源として活用することが、飼い主として果たせる責任です。
羊の出産にリアルタイムで立ち合い、休憩時間には緑の中を走り回る仔羊を眺めて、みんなでラム肉カレーを食べながら、その感想について語り合う。一年を通してこんな取り組みができる一般企業は、他にはまずありません。
こうして羊の最初から最後までを自分たちで経験し、理解すること。これもまた、羊文化を守るという志の表明の仕方の一つではないでしょうか。
「日本の食産業を支える夢」の実現に、また一歩、近づいています。
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