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読書記録┃岸政彦『調査する人生』

社会学者である岸政彦が、同じく社会学者6人(1人教育学者もいるが)それぞれと、《社会学の調査方法》について対談したものを記録した本。

社会学と言えば、ある集団を観察して、その集団の特徴を抽出する学問だと思っている。

たとえば「ゆとり世代は空気を読む力に長けているけど、ひとりで目立つ行動は苦手だ」とか。

でも、この括ってしてしまう行為って、時には括られた人を傷つけるかもしれないと岸らは危惧している。

特にここに出てくる社会学者が扱う対象が「女性ホームレス」や「部落出身者との結婚」と言ったように、母数が少なかったり、差別される側の人間であったりする。
そのため、マジョリティの立場の人間が括った言葉を用いることで、対象者を傷つけてしまうのでは?と課題を呈している。

あるいは、括った言葉で対象を分かった気になって、理解が進まない、無関心、そして分断に繋がるという喫緊の課題。

どうすればこれら課題を解決できるか。
答えはない。有り体に言ってしまえば人や課題に拠る。
それでも対談を通じて、社会学者が各々の方法を模索しているのがわかる。

たとえば、対象者の《語り》を本や論文にまとめることで─そしてこの時まとめすぎないことで─、分かり合えないと思っていた対象の中にも合理性があることに気付くのではないか、という方法。

本質を聞く質問をしないことで、対象者にその場で答えを作らせない方法。

調査方法は多様にあって、調査結果のまとめ方も気を使うところがたくさんあって、まさに切り拓いている最中だと感じた。

社会学の素養がある方読んだ方が染み入る部分はきっと多いのだろうけど、初学者でも2回3回と読むうちにどんどん社会学としての面白さや難しさが垣間見えるようになる本でした。

当事者の方と対話を重ねながら調査をすすめていく、というのはすごい大事ですよね。当事者にしかわからへんと言われたら、その通りやと。でも、それに対して、どうや俺たちにはわからへんねんと開き直って、「わからないことの他者性をどうのこうの」と哲学的になっちゃうよりは、自分に何ができるのかなと、愚直に真面目に考える。少なくともベタな調査をして、そのままやったら消えてっちゃうような物語を記録して保存して蓄積することはできるわけですよね。

本書p.83より引用

わかりやすくしない、っていうことが、いちばん大事だと思うんですよ。質的調査の目的って、どんどん「一概に言えなくしていく」ことだと思う。普遍的な法則を発見するのが目的じゃなくて、ひたすら例外を見つけていく。
質的社会学のやっていることは、仮説を増やすことだと思うんです。一般的に、仮説は減らしていくものだと思われています。ひとつを残してあとは消していく。ですが、逆のことをしていますよね。どんどん増やしていく。

本書p.191より引用

ロジカルで強い論法を貫き通すのって、あまり考えなくても言える。テンプレがあって、なぞっているだけです。でも実際に話を聞いてみると、テンプレではない。そういうのをもう少し「理解」したいなと思うんです。

本書p.194より引用

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