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ステージマネージャーの一日の流れ①(朝からステリハ終了まで)

 ステージマネージャー(ステマネ)の演奏会当日は、朝の入館前から始まる。楽器運搬トラックは朝学校を出発してホールに到着することが多いので、そのトラックの到着の確認から始まる。到着予定時刻にトラックが来なかったら連絡をとり状況を確認しなければならない。入館時刻になったら、団の代表者と一緒にホールの鍵開けのためにホール管理事務室に行く。楽屋の鍵をステマネが開ける場合もあるし団員の方で開けることもあるし、ホール側で開けておいてくれることもある。楽屋の鍵開けと前後して、団の代表者(部長に限らず当日の連絡担当者)と一緒に舞台下手に行き、ホール側ステージマネージャー(ステージスタッフの代表)と挨拶をする。意外なことに、この挨拶をできない人がものすごく多い。できないというか、そういうことを知らない人が多い。ホール側としては、誰がオーケストラ側のステマネなのかわからないと非常に困る。アマチュアオーケストラやスクールオーケストラでは、団の代表者(連絡担当者)と手伝いのステマネが別人物なので、両者とも朝一番にホール側ステージスタッフに挨拶をして氏名を名乗るべきである。

 挨拶が済んだらステージのセッティングである。スクールオーケストラやアマチュアオーケストラの場合は演奏する団員自身がセッティングも行うので見守るだけでもかまわない。もちろん、一緒に作業した方がいい。セッティングに慣れている人がステマネを担当しているなら、団員が行うセッティングを見守るのと同時に、手順を指示していくと効率がよくなり時間の短縮につながる。特に椅子や譜面台などが乗っている台車を舞台袖から出すタイミングを補助するだけでもセッティングの進行度合いは変わる。セッティングがだいたい終了したら、センターの位置がずれていないかを確認し、設営図と相違がないか確認する。設営図に管楽器の置き椅子が記載されていないことがよくあるので、その辺についてもチェックをしていく。相違があった場合、ステマネの方で図面の通りに直してしまうこともあるが、図面に書き忘れているだけだったり、図面作成後に変更となったりしている場合があるので、団員への確認も必要である。指揮台の後側の落下防止柵と指揮者用譜面台の必要性の有無を指揮者に確認しておく。リハーサル中は指揮者用譜面台が必要でも本番はいらないということもある。本番中は念のためにスコアを指揮者用譜面台の上に置いておくが、全く見ないので高さを低くしておくという場合もある。ステリハ開始前に指揮者に確認しなくてはならない。

 舞台設営に前後して、搬入口からの楽器の運び込み状況を確認する。大型打楽器の舞台袖への運び込みが舞台の椅子並べの前に終わっているなら、椅子よりも先に大型楽器をひな壇上に上げてしまった方がいい。椅子並べの段階でまだまだ楽器が舞台袖に到着する見込みがないなら後回しにする。ステージセッティングと大型楽器の搬入が終わったら、反響板の移動となる。ステージセッティング時は反響板が上に上がっていたり大きく開かれていたりするが、それを演奏会時の体型となるようにこの時点反響板を閉じる。反響板を閉じるのに、長いと30分くらい時間を要する。その間、団員がステージ上に入らないように見張っていなければならない。

 ホールによるが、セッティング後あるいはステージリハーサル終了後に、舞台袖の機器の操作方法を教わることがある。教わった場合は、自分たちで操作することになる。舞台袖の機器の操作はホール側スタッフが行い、ステマネはタイミングを指示するだけというホールもある。習う機器の操作は主に、ベルの鳴らし方、舞台と客席の照明の明るさの上げ下げ、影アナウンス用のマイクのスイッチ、内線電話の4種類である。ベルは何種類か選べることもある。ステマネの職権でベルの音を決めてしまってもいいが、ホールの人のお勧めや団員の意見を尊重すべきである。ベルの種類が決まれば、たいていはそのボタンを押すだけでベルが鳴る。舞台と客席の照明の明るさの調節はスライダー式になっているか、ボタンで何%にするかを選ぶ方式かのどちらかである。明るさを最大にするときはスライダーを100%へと動かし、消すときは0%にする。舞台上の照明は0%か100%のどちらかであるケースがほとんどであるが、客席を暗くするとき0%と完全には消さずに10%くらいにすることが多い。30年位前までは演奏中の客席の照明は0%とすることが多かったが、そうすると足元や手元が見えないので防災のためによくないのとプログラムすら読めなくなってしまう。そのような理由から、近年は少し足元や手元が見えるようにすることが多い。特にこだわりがなければ、そのホールの標準的な照明の明るさをホールスタッフに聞き、その明るさにするといい。曲間のステージ上のリセッティングに時間がかかる時は、演奏時と休憩時の中間的な明るさを選ぶこともある。影アナウンス用のマイクのスイッチは大元のスイッチとボリュームだけである。実際に話す人がいる時に音量のチェックを行う。スイッチの操作方法を教わる時に、ホール側スタッフの呼び出し用の内線電話の番号を教わることが多い。内線電話は操作卓に「ご用命は〇〇番まで」と書かれていることもある。

 セッティングが終わった時点、あるいは終了見込みが立った時点で、ステージリハーサルの開始時間の再確認をする。セッティングがタイムテーブルよりも30分以上早く終わったのなら15分くらい早くステージリハーサルを始められるし、長引いてしまった場合は、改めて何時に始まるのかを関係者と相談の上決定し周知を図らなければならない。ステージリハーサル開始時には、舞台袖の扉と客席の全ての扉を閉めて回る。扉が開いていると音響が変わるし、気が散るからである。ステージリハーサル開始後10分間くらいは舞台袖に待機する。ステージリハーサル開始時は奏者や指揮者からホールへのリクエストを受けることが多いからである。例えば温度調節とか、照明のあたりがまぶしいので方向を変えてほしいとかのリクエストである。それらが落ち着けば、ステージ関係の仕事はいったん休憩になる。

 リハーサルが順調に進行しているなら、次は受付のセッティングの確認である。受付のセッティングは団員がリハーサル前に行っているか、団員が依頼した表回り担当の人が行ってくれているはずである。トラブルがないかだけ確認すれば大丈夫である。もしセッティングが予定より遅れているようなら、ステージリハーサル中に手伝うことができる。受付の担当者が集まっているようなら、表回り担当のチーフと挨拶をしてお互いに名乗っておくべきである。演奏会中は、表回りのチーフとステマネが進行のカギとなるので、連絡方法も確認しておく。電話番号を交換するのが手っ取り早いが、舞台袖はコンクリートで囲まれているため電波状況が著しく悪いホールが多い。舞台袖からステージや客席への音漏れが大きい場合は電話を使うことができないので代替手段が必要である。電話を使えない場合は連絡係が伝書鳩として走ることが多い。インカム(トランシーバー)を持っていれば楽であるが、なかなかそのような恵まれた状況にはならない。表回りのチーフと挨拶をしたら、この時点でのお互いの懸念事項の確認、進捗状況の報告をしておく。

 リハーサル中に、ホール内の隅々まで鍵の開閉状況の確認と戸締りをしておく。搬入口がロックされているかどうか、楽屋の鍵の状況はどうなっているか、一般フロアと舞台裏をつなぐ扉の鍵はどうなっているか、ホール客席扉の鍵はどのような状態となっているか、などである。鍵は全て閉めるということではなく、どこの鍵がかかっている状態なのかを把握する。扉自体については、全て閉じた状態にしておく。ホールによっては、客席の扉の鍵を主催者側で開けることになっているところもあるので、一通り見て回るべきである。

 リハーサルの進行についても常に気に留めておかなければならない。ホールのどこにいてもステージの音が聞こえるだろうから、それを聞き逃さないようにすべきである。音が止まった時にはステマネが呼ばれる可能性のある時である。気になった時は客席後方扉からでもかまわないのですぐにステージの様子を見るべきである。

 ステージリハーサル中も曲の入れ替わりの時は必ず舞台袖にいなくてはならない。舞台のリセッティングをする時は当然いなくてはならないが、自分が思いつく用事が何もなくても、奏者や指揮者からリクエストがくる可能性があるからである。またステージリハーサルのスケジュール進行についても気にしなければならない。もし遅れているなら舞台袖からステージの隅に出て待っていたりすると指揮者が気づいてくれる。大幅に予定より遅れているようなら指揮者に時間を知らせるのもステマネの仕事である。

 曲ごとにセッティングが変更となるなら、リハーサルの曲変更のタイミングで「バミリ」をする。簡単な変更だったらバミリをしなくてもできるが、何か所も動かすようならバミリをしておくべきである。多数のバミリをするなら、予めビニールテープや養生テープをたくさん小さく切っておき、下敷きなどのプラスチック板に貼っておくと作業がしやすくなる。リセッティングをした後も、図面と相違がないか必ず確認すべきである。

 スクールオーケストラではあまりされていないが、ステマネのリハーサル中のもう一つの仕事は、客席で音を聞き評価することである。指揮者から呼ばれて聞いていて欲しいと頼まれることもある。そうでなくても、時間を見つけて自主的に聞くようにする。本番中は舞台袖にいなくてはいけないので、客席で演奏を聴けるチャンスはステージリハーサルの時だけである。広々とした客席を自由に独り占めできるのはステマネの特権である。演奏を聞いた時にステージ上の誰も気づいていないような違和感があったら、休憩の時に指摘する。指摘しすぎると嫌がられるので節度をもって行うべきである。本番前に練習しなおすことはできないので、簡単に調整できるような事のみに限定しなければならない。もちろん、素晴らしかった点は大いに話題とすべきである。

 ステージリハーサル終盤に差し掛かったら、表回りのチェックをもう一度行う。ステージリハーサル終了時に全ての裏方の紹介をするのが慣例なので、スケジュール通りにリハーサルが進行しているのかを裏方の人々に周知する。また、練習が終わりそうなら裏方の人達を紹介しやすい場所に集めてくる。ステージリハーサル終了時は、エキストラの紹介、裏方の紹介があり、諸連絡となる。本番の進行についてステマネから奏者にお願いする点があればこの時にする。入退場やカーテンコールなどの進行方法についても一同で確認する。また、ステージリハーサル中にホール側スタッフから指示や伝言があった場合はその内容を伝達する。

ステリハ終了後から演奏会終了までについては次の記事をご覧ください。


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