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ステージマネージャーの一日の流れ②(ステリハ後から退館まで)

朝からステリハまでは下の記事をご覧ください。

 諸連絡が終わったら奏者は休憩になるが、ステマネはこの時間から本番モードとなる。そのため、お昼を食べる時間は、ステージリハーサルが終わる前か、本番が始まってからとなる。ステージリハーサルが終わったら、舞台上のセッティングが1曲目のセッティングとなっているか確認する。影アナの練習や舞台上でのスピーチの練習などもステージリハーサル終了直後に行われることが多い。それら全てのことにステージマネージャーは立ち会わなければならない。またこの時間は、照明の最終チェックも行われるので舞台が明るくなったり暗くなったりすることがある。機器の操作を主催者側(ステージマネージャー)が行う場合は、操作の練習をできるタイミングでもある。本番中に使う全てのスイッチを試してみるべきである。感覚をつかみにくいスイッチは、舞台と客席の照明の明るさ調節のスライダーである。急激に動かしてはならず、遅すぎると違和感を感じてしまう。2~3カウントで目的の明るさとなるように心がければちょうどいいスピードになる。オンオフの順番を間違えるとホール内が真っ暗になってしまう。近年は防災リスクの回避のために、オーケストラの公演ではホール内が真っ暗になるタイミングを作らないようにしている。要するに、開演で奏者が舞台に出る時は舞台照明を明るくしてから客席を暗くする。客席を暗くしてからその後舞台を明るくするという順番は行わない。逆に舞台から奏者が退場する時は客席を明るくしてから舞台を暗くする。慣れていれば、右手と左手であるいは片手の二本の指で同時に舞台と客席の照明の上げ下げをしてしまうこともできるが、初めて操作する人は一個ずつ順番にした方が確実である。

 照明の上げ下げのタイミングについては、十分に演奏者、指揮者、ドアマン等と確認しておかなければならない。一番多いパターンは、本ベル後に舞台照明を上げて客席の照明を落として演奏会の開始とし、休憩に入る時は客席照明を上げて舞台照明を落としてからアナウンスを入れるという方法である。演奏会に後半プログラムも同様である。これらの順序に決まりはないので、各団体の事情に合わせたものでかまわない。客席ドアは、客席照明が付いている時のみ開けるのが基本であるので、照明のオンオフをドアマンも知っておく必要がある。曲間でステージセッティングの入れ替えがある場合は、その時の照明についても取り決めておかなければならない。また、後半プログラムとアンコールの終了後の照明の上げ下げのタイミングについても全員が把握しておかなければならない。照明のタイミングがチグハグであると、それだけでお客さんから不慣れな集団だと思われてしまう。

 ステージリハーサルが終わる頃から、到着の早いお客さんがゲート前に列を成すことがある。そのため、この時間からはステージマネージャーは舞台袖から離れることはできない。何もトラブルがなければ舞台袖で誰かと話しているだけかもしれないが、何かあった時のためにスタンバイしているのが仕事である。

たくさんのお客さんが受付前に並び始めたら、表周りのチーフと連絡をとり、オンタイムの開場とするか時刻を早めるかの協議をしなくてはならない。ステージマネージャーは、ステージ上や奏者にトラブルがないことを確認し、ステージ上と客席内の状況から判断してオンタイムあるいは早めの時間の開場ができるのかを表回りのチーフに報告する。まれに、客席に掃除が入るので開場を遅らせて欲しいとかのリクエストが入ることもある。5分遅れる程度のことなら、受付ゲートだけオープンし、ロビーでお客さんをとめるということもできる。オープンを早めるという決断をする場合は、演奏者全員に前もって知らせなければならない。

 開場時刻の10分くらい前からは、奏者に舞台から撤収することをお願いしなければならない。そして開場5分前には舞台上からの撤収を完了させ、舞台照明0%客席照明100%にする。たまに、2階ロビーや階段室の電気がついていないこともあるので、そのような事にも気を回さなければならない。開場時には、全ての客室ドアが開かれており、舞台裏と一般フロアの境目の扉が閉まっていることを確認する。指揮者が本番中も譜面を使うなら、指揮者の譜面も開場時刻までに譜面台の上に置くようにする。指揮者により、表紙が見えるように楽譜を閉じておくように指示される場合もあるし、演奏冒頭のページを開いておくように指示される場合もある。指揮者によっては、予鈴直前まで楽譜を見ていることもあるので、その時は指揮者の希望に従う。それらの操作が完了したら、受付ゲートにオンタイムあるいは協議で決めた時間に開場していいことを伝える。開場の最終許可者は受付担当者ではなくステージマネージャーである。そのことを忘れてはいけない。

 舞台下手には多数の館内モニターがあるはずである。開場時刻後はそれを見ながら問題が起きていないことを監視する。お客さんの出足についても観察すべきである。たまに、ホール最寄り駅に停車する電車が運休してしまいお客さんが全く来られないということがある。そのような時は開演時間を遅らせるのか関係者と協議しなければならない。また、奏者や指揮者としては客足が気になるので、気にしていそうな人には、何人くらい来たのか、いい出足なのかそうでないのか、などを伝える。特別招待の主賓が来場したかどうかをチェックすることもある。

 開演時刻5分前に予鈴を鳴らすのでその準備をする。予鈴を鳴らす前には影アナ担当者がマイクの前にスタンバイをしているか確認し、舞台袖に集まっている奏者に静かにしてもらう。関係者にオンタイムでいいか再確認し、問題なければステマネからオンタイムを宣言して定刻に予鈴を鳴らす。そして、影アナとなる。アナウンスが終了したら、奏者が全員そろっているか確認するために点呼をとる。点呼はステマネが直々に行う必要はなく、団員に確認を促せば大丈夫である。

 本ベルの前には客席の着席状況を確認し、奏者の側にも問題がなければ表回りのチーフ、ホール側スタッフ、指揮者など関係者全員にオンタイムを宣言し、本ベルを鳴らす。客席の方でざわついていたりトラブルがあったりするようなら、様子を見てから鳴らすようにする。指定席制の場合、この時点で客席間違えやダブルブッキングが発覚するのですばやく誘導係など表回りの要員が対処するようにする。本ベルを鳴らす時には、客席のドアマンと舞台袖のドアマンが定位置についていなければならない。

 本ベルは、予定時刻より仕方なく遅くなってしまうこともあるが、定刻よりも早くに鳴らしては絶対にいけない。後が詰まっているのか3分ほど早く始めた演奏会を見たことがある。それでは客席内は落ち着かないどころか静かにもならない。当然のことながら、曲が始まってから入ってくるお客さんも大勢いる状態であった。1曲目の演奏に間に合わなかったお客さんが多数いたようで、1曲目終了後に入ってくるお客さんも大勢であった。そうなると、2曲目も客席内は落ち着かない雰囲気のままである。お客さんに案内していた時刻より早めることは絶対にしてはいけない事である。

 本ベルが鳴り終わり、客席が落ち着いたことを確認できたら、照明を演奏中の状態にし、舞台への扉を上手下手同時にあける。開けるタイミングが大きくずれると、お客さんとしては演奏への期待が一段階下がってしまう。小窓や隙間から反対側を覗きながら呼吸を合わせて開けるようにする。奏者が舞台袖から出ていくときは舞台袖の照明を暗くすることもある。昔は、客席から覗かれないようにするため舞台袖は暗いのが当然だったが、近年では明るいままのことが増えてきている。これも防災のためと、舞台に出た瞬間に舞台用の照明で目が潰れるのを防ぐためである。舞台へと奏者や指揮者を送り出すとき、拍手をステマネの方で先導することがある。扉のそばで少しオーバーに大きな音で拍手をすれば、自然と客席から拍手が沸き上がってくる。決して客席内からステマネが拍手をしているのを見られたり悟られたりしてはいけない。あくまでも、客席内から自然と拍手が沸き上がったように演出するのである。近年の演奏会では、奏者の入場、コンサートマスターの入場、指揮者の入場の3回拍手をするのが流行しているが、昔からの慣習ではコンサートマスターは奏者と一緒に入場し、指揮者の入場時だけ拍手をしていた。伝統的なスタイルを採用している団もあるので、その団の前例を把握しているのなら前例に倣うべきである。奏者が入り終わったら、上手下手の両方のドアを同時に閉める。舞台の中を確認し、奏者でトラブルが起きて困っている人がいないかを確認する。問題がなければ自然とチューニングが始まるはずである。問題がある時は奏者が舞台袖に戻ってくるので、扉を開け対応をする。ステージ上でトラブルがないことを確認すると同時に、お客さんの方もトラブルなく着席できているかを確認する。お客さんの確認は、モニターを見て確認するといい。ロビーなどに人が残っていたり、走ってくる人を見かけたりしたら、可能な限り客席内に入るのを待ってから次のステップに進む。お客さんの着席状況の確認は受付チーフと連絡をとる方法でもかまわない。実際に待つかどうかの判断はステージマネージャーの方で決断しなければならない。
 お客さんが落ち着いたのを確認したら、次は指揮者の送り出しとなる。指揮者に、「客席が落ち着いたので心が整ったタイミングでいつでもどうぞ」と案内する。客席が落ち着くまでは、手を挙げて静止のポーズをとっていれば伝わる。待つ理由を説明すれば納得してくれるはずである。指揮者が舞台にあがる気になったら扉を開ける。このタイミングはステージマネージャーが勝手に決めて指揮者を従わせるのではない。指揮者の意思により決まるものである。また、扉を開けてから指揮者の出ようとするのを待つのではない。指揮者が出ようとするタイミングで扉を開ける。もし、指揮者とステージマネージャーが演奏会に慣れているなら、指揮者が出ていくタイミングは客席の呼吸で決まる。客席が静まり返って、指揮者の登場への期待感が最高潮に高まったタイミングを見計らって指揮者の入場とする。指揮者を送り出すときは盛大な拍手を先導する。指揮者が指揮台までの中間地点くらいまで歩いたら扉を閉める。
 そして、指揮者がタクトを構えて振り下ろすタイミングを待ち、時計で時刻を確認する。確認した時刻は、必ず自分のタイムテーブルに書き込みをしておく。1曲目の演奏が終わった時点で再度時計を確認する。曲が終わりタクトを下ろしても拍手が沸かないようだったら、ステマネの方で拍手を先導する。指揮者が途中まで戻ってきたら扉を開け迎え入れる。迎え入れた後は、リセッティングとなる。セッティングの変更が無かったら、指揮者の呼吸が整うのを待って再度送り出すことになる。指揮者が呼吸も整えずに出ていきそうになったら少しお待ちくださいと声をかけるのもステマネの役割である。また、この時も遅れて到着したお客さんが着席して落ち着いているかどうかの確認も忘れずに行う。演奏会は、単なる曲の羅列ではなく「間(ま)」を持った一連の流れと考えるべきものであり、間を調整するのはステマネの仕事である。2曲目の演奏開始時刻もメモしておく。その時点でスケジュールとのずれを照合しなければならない。予定通り、あるいは早めの進行なら問題ない。遅れている場合は、どのくらい遅れているのか計算し、休憩時間の短縮を関係者と協議しなければならないこともある。多少遅れていても、ホールからの退館時間に間に合う見込みなら休憩時間の変更は必要ない。スケジュールとのずれについては、表回りの裏方やホールスタッフとも情報共有しなければならないので、必ずステージマネージャーから伝えるようにする。

 前半のプログラムが終了したら奏者が全員戻ってくることになるが、奏者としては戻るタイミングをつかむのに苦労することがよくある。舞台袖への扉が両方とも開けば戻るタイミングだとわかる。あるいは舞台の照明が暗転し照明が休憩中のモードになったら戻るタイミングだと自覚することもある。事前にどのようなタイミングで戻るのかを相談しておくべきである。もし、扉を開けたり舞台照明を落としたりしても戻ってくる気配がなかったら、お客さんに見えないように舞台袖から手招きして呼び戻す。奏者が舞台袖に戻ってきたら、休憩終了時刻を奏者にアナウンスする。奏者は前半が終わった安心感から時計を見忘れることが多い。また、休憩開始時に影アナが入ることもある。アナウンス中は戻ってきた奏者に静粛にするようにお願いする。休憩中にリセッティングが必要なら適宜行う。指揮者の譜面台に前半の楽譜しか置かれていない場合、交換するのはステマネの役割である。

 後半プログラムが始まったら時刻をメモし、気が早いかもしれないが、演奏会終了後の片付けのモードに移る。メモした時刻から、プログラム終了予定時刻と、アンコール終了予定時刻を計算し受付チーフに連絡する。これらの終了予定時刻の連絡はかなり重要である。休憩後になって遅れて到着したお客さんからは必ず終演時刻を聞かれるし、アンケート回収ボックスなどの準備のタイムリミットにもなるからである。受付にゲートの規模の縮小や片付け開始の依頼をし、ステマネ自身は舞台袖を静かに片付ける。搬入口の扉まで持っていけるものは運んでしまってかまわない。ただし、ステマネ自身は長時間舞台袖を離れるべきではないので、誰かにお願いをして運んでもらう。ステージの片づけに必要な椅子や譜面台の台車などの道具の確認もしておく。花束を渡す場合、後半のプログラムが始まった時点で花束を舞台袖に運び込む。演奏会開始前や休憩中に指揮者や奏者の目に花束が入ってしまうのは興ざめである。花束贈呈担当者と、カーテンコールのどのタイミングで花束を渡しに行くのかの最終確認をしておく。指揮者が戻ってきて最初に出た後に渡すか、さらにもう一回戻ってきて再度出た後に渡すかのどちらかがおすすめである。花束贈呈担当者をステージに送り出すタイミングはとても難しい。花束贈呈者を送り出すタイミングは数秒ずれるだけで印象が大きく変わってしまうからである。また送り出すキューを絶妙なタイミングで出したとしても、花束贈呈担当者が躊躇してしまうと出遅れとなってしまう。指揮者が舞台袖に戻ってくるために舞台袖の方へ振り向く前に花束贈呈者が舞台袖の扉から出ているようなタイミングに出るということを花束贈呈者にしっかりと理解してもらえればたいていは大丈夫である。

 アンコールも終わったら盛大な拍手で奏者を舞台袖に迎え入れる。この拍手はお客さんの拍手を先導するためではなく、ステマネから奏者への拍手である。全員が戻ってきたら、舞台袖から楽屋に速やかに移動するように促す。最初の方に戻ってくる奏者をうまく奥まで誘導しないと、扉付近が混雑し後ろの方の奏者が舞台袖に入れなくなってしまう。舞台袖が狭いホールでは、戻ってくる先頭の奏者に立ち止まらずに楽屋まで行くように促さなければならない。

 お客さんが客席から退出し終わるタイミングを見計らってステージの片付けを始める。片付けのタイミングはホール側スタッフと協議の上始める。本来はお客さんが退出し終わって客室内が空になったのを確認し客室扉を閉めてから行うべきであるが、時間的にその状態を待っていられないことが多い。ホールの完全撤収時刻から逆算し片づけを始めなければならない。片付け前に反響板を動かすのなら、動き終わるのを舞台袖で待たなければならないこともある。反響板が移動している時でもステージに入っても問題ないのなら、楽譜を回収し、譜面台をスタックしやすいように低くして向きをそろえながら反響板の移動を待つ。椅子や譜面台を片付ける前に、可能な限り楽器をステージ上から退避させておいた方がいい。コントラバスや打楽器を片付けるのにも時間がかかるので、その片付けを舞台袖でできるようにしておく。それから譜面台と椅子の片づけである。並べる時とは違い、台車に近いところから順次回収していく。スクールオーケストラの場合、片付けも奏者である団員が行うことになっていることが多い。感情がよっぽどドライな集団でないかぎり、演奏直後は片付けどころではないような状況になっていることが多い。ステマネと表回りの手が空いている人たちで片づけてしまった方がいい。特に予定より大幅に時間が押してしまった場合、あるいは元々片付けの時間が短い(30分程度)予定だった場合は、後半プログラム中に表回りから何人か呼び寄せておき、舞台暗転の直後から片づけを始めなければならない。退館時刻まで1時間近くあるようなら、そこまで慌てて片付けなくても間に合うはずである。

 ステージの片づけが済んだら、楽器の片づけ状況、トラックへの荷物の積み込み状況、お客さんの退館状況、受付の片づけ状況などの確認をする。たいていはステージの片付けが早くに終わる。全ての荷物をトラックに積み込めたのを確認し、最後、団の代表者と一緒にホールスタッフの所へ挨拶に行き、ステマネの一日の仕事が終了である。朝の挨拶と同様に、退館時もホールスタッフへの挨拶を忘れてはいけない。挨拶と同時に忘れてしまっている片付けがないかをホールスタッフと確認するといい。


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