#68 雨で思い出すこと。トラウマになった折り畳み傘はどこで売っていたのだろう。
「雨の日に限って散歩したくなるの」
折り畳み傘の開け方が手慣れていて疑いなどしなかった。
この女性は雨の日にポエミーになる。
雨の日のプレイリストの作り方もこの人に教わった。
雨の日の匂いの楽しみ方も。
雨の日の香水の付け方も。
雨の日の生き延び方も。
「ごめんね、急に誘って。しかも雨の日に」
「大丈夫ですよ。雨だから見えるものもあるやろうから」
「そうだね」
先日、友人宅に傘を忘れて帰ったので
急遽、なけなしのお金でビニール傘を買った。
黒に花のような模様が入っている折り畳み傘の隣にいると
人としての差が傘に表れているようで
行き交う人たちの顔は見ないようにしていた。
だがついに自分で抱えきれなくなって思わずこの人にも言った。
「あははっ!そんなこと思ってたの?笑」
「馬鹿げてるとは思ってたんですけど・・・」
「ふふっ笑、なら傘を交換したら逆になるかな?」
「いやぁ、ビニール傘が美しく見えますよ」
「え、いつもそんな口説き方してるの?」
「そんなつもりなかったですけどどうでした?」
「ん〜?悪くないよっ。あっ!ねこ!」
シャッター前で雨宿りする猫に真っ先に向かっていった。
雨が好きな女性はどこか掴めない。
このこともあって、少し雨が嫌いになった。