#61 やっぱりお酒を飲まなくてよかった。シラフでないと二次会で後輩がこぼした言葉を忘れてしまうから。
「そんな〇〇さん見たくねぇすよ」
定年退職祝い飲み会後の二次会中のこと。
後輩二人のあいだの席が空いたのを見逃さず、すかさず入って話を振る。近況や愚痴を吐く後輩に求められていないアドバイスをしてあげる。
「そんなことより今何してるんすか?」
スポーツをしてきた高卒の敬語は、すか?が最上級の敬語である。無論、わたしも。
「なんもしてへんよ、放浪」
「そりゃ見たら分かりますけど、これからは?」
「やりたいことやりながら後は流れに身を任すかな」
「お金どうするんですか?」
「とりあえずオヤジの会社を手伝おうかな」
「それってどうなんですか?」
お酒入ってどうせろくに覚えもしねぇのに質問ばっかりしてきやがる。嫌じゃないけど。
「まぁまぁとりあえずやからええやん。
それは俺の理想像が大きすぎやしないかい?」
「そりゃそうでしょ!!!」
思った以上の熱量を返される。
「俺たちどんだけ○○さん見てきたと思ってるんすか。俺らにもやりたいこととかあるかもしれないけどやっぱり○○さんみたいには出来ないんすよ。だから楽しみなんすよ。自分の事じゃないけど期待したいんすよ。自分の事のようにがっかりしたくないんすよ」
私は怒られている。
ひとつの物語を見ている視聴者であるように後輩は語った。
私ははっきり覚えているのが後輩は覚えていないことが最もタチが悪い。
自分ができないことを他人に押し付けて自分は頑張ろうともしない。自分が会社を辞めてやりたいように生きればいいだけなのに。
とは、当時微塵も思わなかった。
「誰かのために生きようとは思わんけど、自分が自分のファンになれるような生き方は絶対に曲げんから大丈夫や」
我ながら良いパンチラインを放ったが。
後輩はチーズが乗ったつくねを頬張り、ピーチウーロンをグビリ。