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クレヨンしんちゃん『オトナ帝国の逆襲』感想

以前から気になっていたクレヨンしんちゃんの映画『オトナ帝国の逆襲』がAbemaTVで無料配信されていたので見てみた。

舞台は20世紀博というテーマパーク。懐かしさに心を奪われる大人たち。裏で糸を引くイエスタデイワンスモアという組織のケンとチャコ。大人を救うべく動き出したかすかべ防衛隊と組織の計画を阻止すべく戦う野原家。
クレヨンしんちゃんらしさもあってとても楽しめたのだけど、大人の視点から見ても考えさせられる話だったように思う。

ケンとチャコが作り出した街。
2人が帰る昭和の香りが色濃く残る下町の商店街にはなんとも言えない懐かしさがあった。映画の中には他にも万博や昭和ギャグなど知っているとより楽しめるモチーフが散りばめられていて、私自身この時代を生きたわけではないのに心を擽られた。昭和の原風景としてテレビで特集されたりそれを見て親が懐かしがっている雰囲気を感じ取っていたせいかもしれない。

20世紀に執着する2人。
イエスタデイワンスモアが過去に執着する気持ちは分からなくはない。技術力こそ万博の頃に思い描かれていた未来よりも進んだけれど、なんとなく先行きが不透明で未来への夢とか希望が持てないような世の中になってしまった。コミニティも希薄化していわゆる“人情”みたいなものも少なくなってしまったように思う。今になって振り返ると良くない風習もあったから手放しに「あの頃は良かった」とは言えないけれど。

そしてそんな組織の計画を阻止すべく立ち向かう野原家の姿には街の人たち同様胸が熱くなった。特にしんちゃんが満身創痍になりながらも前に進む姿、迷いなく大人になりたいと叫ぶ姿には思わず涙が零れた。あのまっすぐな目はとても眩しくて直視するのが躊躇われる。
計画が阻止され紐なしバンジーを選ぶほど何が彼らを追い詰めていたのかは分からないけれど、チャコの死にたくないという言葉からは未来への未練のようなものを感じた。しんちゃんのまっすぐな目に感化されて、少しでも希望を持ってくれたらと期待してしまう。


私の場合はケンとチャコとは少し違うのだけど、現代社会の目まぐるしい変化に疲弊気味で戻りたいとは思わないまでも懐かしさに浸りたくなることがある。まだSNSもなくてネットがここまで発達していなかった時代はもう少し社会全体の流れが緩やかだったように思う。時代が進むにつれて新しい技術がどんどん出てきたり物事の価値観が変わっていったり、自分の知識の範囲内で理解出来ていた物事がどんどん減っていき常に情報のアップデートが必要になってくる。勝手知ったる世の中はぬるま湯のようで過ごしやすいけれど、現状維持で満足してしまうと時代の流れに取り残されてしまうのも事実。
走り出す野原家と「最近は走っていない」というケンのセリフはとても対照的でそんなことも考えされられた。
ただ最近は、無理に歩かずとも川に流れる木の葉のように時代の流れに身を任せてしまうのも一つの方法かも……とも思っている。

過去を懐かしく思うこと自体は悪いことではないけれどそこに囚われすぎて前に進めなくなってしまうのは良くない。どんな方法であれ未来に進むことを止めてはいけないのだと、改めて気付かされた映画だったように思う。

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