大阪弁と京ことば
東京の人は筆者の話す言葉を「関西弁」だと言います。これがものすごく違和感があるのです。筆者は大阪弁(厳密に言えば摂津弁と河内弁のバイリンガル)話者なので、「関西弁ってどこの方言やねん?」ということです。
今週は大阪弁と京ことばについて妄想してみようと思います。
※筆者は大阪弁や京ことばの研究者ではありませんので、ここに書くことはあくまでも筆者の私的考察といつもの妄想です。何も裏付けはありません。正しいとも限りませんのでご容赦ください。
関西弁ってなんやねん?
関西弁を調べてみると次のような解説がありました。
Wikipediaに書いてあるように、関西弁の範囲は広く、あいまいです。近畿二府四県にはそれぞれの方言が存在しますし、大阪弁もいくつかに分類されるほど違いがあります。
大阪弁にもいろいろありまんねん!
大阪は上図のように摂津・河内・和泉に大別され、それぞれ使う言葉が違います。一般的に「大阪弁」と呼ばれているのは大阪市と淀川以北の北摂地域で構成される摂津地域の摂津弁です。
河内弁の河内地域はさらに北河内・中河内・南河内に分けられます。その中でも枚方市や寝屋川市などの北河内は京ことばと摂津弁の影響を受けてずいぶんマイルドな河内弁で、若い人に限ればほぼ摂津弁と言ってもいいでしょう。中河内と南河内は、今東光氏の小説・映画「悪名」に登場する八尾の朝吉が使う河内弁です。ただし、「悪名」に登場する河内弁はデフォルメされていて、作者が意図的に柄悪く書いているように思います。
和泉地域は泉州と呼ばれ、堺市・高石市・泉大津市・和泉市・忠岡町の4市1町からなる泉北と、それ以外の泉南にわけられます。言葉としては、泉北は摂津弁に近い比較的マイルドな泉州弁です。泉南は和歌山の紀州弁と漁師ことばの影響を受けて、濃厚で豪快な泉州弁になっています。
ちなみに、北摂地域の人は泉南の泉州弁が理解できないことがたまにあります。また、泉南泉州弁話者同志のごく普通の会話が、北摂の人には喧嘩腰の会話に聞こえたりします。
泉南泉州弁同様に元々は荒く聞こえる言葉だった河内弁が、時代と共にマイルドになり、現在では生粋の河内弁を聞くことが少なくなったのに比べれば、泉州弁の現役感は特筆すべきものだと思います。
余談ですが、筆者の父親は中河内の人だったので、酔うと河内弁がひどくなり、「あんだらぁ」「おどれ、なんかってけっかんねん」なんてことをよく言っていました。「あんだらぁ」は「あほんだら」、「おどれ」は「おんどれ」=「おまえ」、「なんかってけっかんねん」は「なにぬかしてけつかんねん」の巻き舌・早口バージョンで、標準語なら「なにを言ってるんだ」という意味です。
また、たいていはその後に「どったろか!」と続きます。「どったろか」=「どついたろか」=「殴るぞ」です。全部つづけると、「あんだらぁ! 」「 おどれ、なんかってけっかんねん! 」「 どったろか!」となります。
このセリフは喧嘩などでも使いますが、親しい人と笑顔で話す挨拶程度の日常会話としても使います。喧嘩で言う場合は、興奮して巻き舌がひどくなり、聞き取れないこともよくあります。
船場ことばについて
船場は、現在の大阪市中央区の一角の地名で、元々は大坂城築城のために黒田官兵衛によって集められた労働者の町でした。築城後は京や堺から呼び寄せられた商人の町となり、以後、大坂経済の中心として発展していきます。
その船場で生まれたのが京ことばと地の大阪弁のハイブリッドである「船場ことば」で、井原西鶴や近松門左衛門らの作品に大きな影響を与えました。また、故・桂米朝師が上品で軽やかな船場ことばの使い手であったことも忘れられません。
長い年月を経て、船場ことばは周辺の河内弁や泉州弁の影響を受けて変化していきます。その結果、現在、広く「大阪弁」として認知されている、謂わば大阪弁の集大成とも言える摂津弁が誕生したのではないかと思います。一方、生粋の船場ことばはごく一部で細々と受け継がれているだけになりました。
船場ことばと京ことば
船場ことばが「船場弁」ではなく「せんばことば」なのは、京ことばが基になっているからです。
京は日の本の都なので、方言を意味する「京都弁」ではなく、標準語である「京ことば」なのです。「京都弁を教えて下さい」と祇園の芸子さんに言うと、「京都弁? どこのお弁当どすか?」と言われたというのは古典的な小話です。この手の京都人のいけず小話は他にもあります。
『大文字焼きはいつですか?』
『それ、どこのお菓子どすか?』
大文字焼きではなく「五山の送り火」が正解です。
『祇園祭の山鉾巡行はいつですか?』
『いやー、その蒲鉾おいしおすかー?』
祇園祭の山鉾が正解です。※祇園祭の関係者で「やまぼこ」という人もおられるので、筆者は一概には言えないと考えますが、どれが正しいのかは、京のお人が決めることやと思てます。
花街の京ことば
現在生き残っている伝統的な花街ことばは、ほとんどが女ことばです。それは芸子さん・舞妓さんなど、花街の人達が伝統的な京ことばを護り続けてきたからです。一般の京都人ももちろん京ことばを使いますが、代々続く老舗の方以外は現代大阪弁同様に、かなりマイルドで現代語ナイズされたものです。
ちょっと話はそれますが、俳優の岸部一徳さんは、生まれも育ちも京都なだけあって、きれいな京の男ことばを映画「舞子はレディー」で披露されています。また、同じく「舞子はレディー」に出演されている田畑智子さんも、祇園で300年続く老舗料亭のお嬢さんなので、きれいな京ことばでしゃべってはります。
おばんざい
そんな京ことばの中で、全国的に認知されているのが「おばんざい」、漢字で書けば「お番菜」または「お飯菜」ですね。「お番菜」の「番」は番傘や番茶などの「番」、つまり「常」という意味で、日常のおかずということです。もうひとつの「お飯菜」は、女房ことば(宮中で天皇に仕える女官たちが使った言葉)で「ごはん」を意味する「お飯」の「菜(おかず)」で「お飯菜」です。
この単語は全国的に有名ですので、京都においでになった観光客のみなさんは「おばんざい」とおっしゃいます。しかし、京都人は「おばんざい」とは言いません。(大阪人が断言するのもおかしいですが) 飲食店では商売なので「おばんざい」と言いますが、「おばんざい」はよそ行きの言葉なので、普段の生活では「おかず」なのです。
女房ことば
京都でも若い子は知らないと思いますが、京ことばには「おかず」「おばんざい」「おぞよ」「おまわり」という、ほぼ同じ意味の言葉が四つあります。
「おぞよ」は漢字では「お雑用」で、かしこまった料理ではなく、「雑用」の安い、普段の惣菜という意味です。また、「おまわり」は米(主食)の周りに並べられるという意味の女房ことばで、これもまた普段の惣菜のニュアンスです。そして「おかず」はもちろん「おかず」です。日本中で「おかず」と言っているのかもしれませんが、「おかず」はそもそも、室町時代に宮中(皇居内)の女官が使った女房ことばです。おかずだけではなく、頭に「お」がつく言葉の多くは女房ことばです。
おでん と おなら と おかず
例えば、豆腐に味噌を塗って焼く料理=田楽を女房ことばで「おでん」と言いました。田楽の前半に「お」を付けたのです。他にも、握り飯の前半に「お」を付けたのが「おにぎり」で、庶民が「屁」(尾籠な話で申し訳ありません) と言っていたものを、貴族は「(音を)鳴らす」と呼んでいて、その「なら」に「お」を付け、語尾の「す」を省いて「おなら」になりました。そして、ご飯を食べる時の「数ある惣菜」の「かず」に「お」を付けて「おかず」です。
ノープランでなんとなく書き始めた記事でしたが、書いているうちに思いの外おもしろくなってきました。もしご要望があれば続きを書きたいと思います。ぜひコメントでご意見をお聞かせ下さい。「ほなまた!」
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