欧州におけるグリーン・ウォッシュ規制について
過去にこのnoteでもグリーン・ウォッシュに関する投稿をしたような記憶がありますが、今年の3月に欧州が規制強化の動きに出たようです。
そこで、今回はなぜ欧州でそのような動きが出ているのか、グリーン・ウォッシュ規制の中身などについて記載していきたいと思います。
1. 規制強化の背景および目的
欧州委員会が2020年に行った調査では、環境に関する主張の53.3%が
曖昧、誤解を招く、または根拠に乏しいものであり、40%が完全に根拠を欠くものであったとされています。
さらに、 57.5%のケースで、環境主張を行う業者が環境主張の正確性を判断できる十分な要素を提供しておらず、当局は、多くのケースで、環境主張が製品全体を対象としているのか、製品の一部のみを対象としているのか、会社を対象としているのか、特定の製品だけを対象としているのか、製品のラ イフサイクルのどの段階を対象としているのかを特定するのに苦労したとの報告があがっています¹⁾。
上記の調査結果から分かるように、不明瞭または十分に裏付けのない環境主張、すなわちグリーンウォッシングはEUの広範囲に広がっており、消費者の信頼を失いつつあることが明らかになっています。
加えて、EU域内市場には 230 の サステナビリティ・ラベルと 100 のグリーンエネルギー・ラベルがあり、これらの環境ラベルは、要件、監視基準、透明性等の点でそれぞれ異なる基準を持つため、このような複数の環境ラベルの存在が消費者を混乱させる原因となっている可能性があります。
こうした問題を受け、EUでは、消費者保護のために、グリーン・ウォッシュを規制する指令およびグリーン・クレーム指令等の規定に向けた議論がなされてきました。
これらの規制は、消費者が十分な情報を得た上で購買決定を行い、より持続可能な消費パターンに貢献することを可能とすることを目的としています。
より大きな枠組みとしては、欧州委員会が2019年に公表した欧州グリーン・ディール(欧州経済を持続可能なものに移行するための戦略)に含まれるものです。
本指令の目的として、以下4点挙げられます²⁾。
欧州全域で環境主張の信頼性、比較可能性、検証可能性を高めること
グリーンウォッシングから消費者を守ること
消費者が十分な情報を得た上で購買決定を下せるようにすることで循環型かつグリーンな欧州経済の創造に貢献すること
製品の環境性能に関して公平な競争条件を確立すること
2. グリーン・ウォッシュを規制する指令の発行
欧州理事会は、2024年2月20日、従前の欧州の「不公正商行為指令(UCPD)」と「消費者権利指令(CRD)」を改善する形で、「不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令(ECD)」を採択し³⁾、同指令は同年3月26日に発行しました。
今後、欧州加盟国は採択から2年以内に国内法規制への置き換えを行い、30カ月以内に適用することが求められます。
このECDに、グリーン・ウォッシュ規制に関する内容が示されています。
(1)適用範囲
ECDは、商業的な企業対消費者(B2C)のコミュニケーションにおける全ての持続可能性の主張を対象としており、持続可能性の主張には、以下に記載する環境主張および社会的特性に関する主張の双方が含まれます。
環境主張:ラベル、ブランド名、企業名、製品名などの文章、絵、図表、象徴的表現を含むあらゆる形式において、EU法または国内法の下で強制力を持たないメッセージまたは表現であり、製品、製品カテゴリー、ブランド、または取引業者が環境に与える影響がプラスもしくはゼロであること、または他の製品、製品カテゴリー、ブランド、もしくは取引業者よりも環境へのダメージが少ないこと、もしくは時間の経過とともにその影響が改善されていることを表明または示唆するものとされています。
※「製品」とは、不動産、権利、義務を含むあらゆる商品 又はサービスを意味します。
なかなか難しい文章ですね・・・。そもそも環境主張とは、
企業や組織が製品やサービスを提供するにあたって、どのような点が環境に配慮されているのかを自ら公に宣言すること、であります。
その際、取り組みの具体的な内容が消費者やステークホルダーに伝わるよう、説明文やラベル、シンボル、図表、環境認証などを用いるのが一般的とされています。
上記(環境主張)に記載されている文章では、製品やブランドが環境に良い影響を与えているかのように見せかけるが、実際にはEU法や国内法で定められた基準に基づいていないメッセージや表現について説明しています。
この場合、ラベルや広告などで製品が環境にプラスの効果を持つ、環境に対する悪影響がない、他の製品よりも環境へのダメージが少ない、あるいは時間が経つにつれて環境への影響が改善されていると表明または示唆しているものの、これらの主張が法的な基準によって支えられていない場合を指しています。
社会的特性に関する主張:適切な賃金、社会的保護、労働環境の安全性、社会的対話など、関係する労働者の労働条件の質と公正さに関連する情報であり、人権の尊重、男女平等、D&Iを含むすべての平等な待遇と機会、社会的イニシアチブへの貢献、動物愛護などの倫理的コミットメントに関連しうるものです。
こちらはイメージがつきやすいですね。
ちなみにD&Iという言葉について、最近は良く目にするようになってきましたし、ご存知の方も多くいらっしゃるかと思いますが、ここでは少しだけ意味について触れておきたいと思います。
「D&I」の「D」は「多様性、さまざまな種類、相違点」などという意味のDiversity(ダイバーシティ)の頭文字から来ており、「I」は「包括、受け入れる」という意味のInclusion(インクルージョン)の頭文字から来ているようです。ざっくりと表現すると、「多様性を大切にし、受け入れる」ということになります。
ECDはグリーン・ウォッシュに関する規制であることが注目されがちですが、それは環境主張の部分のみの話しであり、実際には人権や多様性も含む表示の在り方が求められてくる場面があることに注意が必要です。
(2)禁止される行為の概要
ECDに基づく禁止行為または規制には以下のものが含まれます(一部抜粋)。
一般的な環境主張の規制:例えば、「環境に優しい」「エコフレンドリー」「グリーン」などの一般的な環境主張については、当該主張に関する優れた環境性能(EU規則などに準拠した環境性能)を実証できない限り禁止されます
持続可能性ラベルの使用の規制:ECDでは、認証制度に基づかない持続可能性ラベル(自主的な信頼マーク、品質マークなど)の表示が禁止されます。そして、認証制度は独立した第三者の検証スキームとして、透明かつ公正な条件で全てのものに開かれており、関連する専門家やステークホルダーとの協議を通じて策定される等の要件を満たさなければいけとされます。
カーボンオフセットのみに基づく主張の禁止:カーボンオフセットのみに基づき、品質が温室効果ガス排出の点で環境に中立、削減、またはプラスの影響を与えると主張することは禁止されます。
将来の環境性能に関する主張の規制:ECDでは、将来の品質、サービス等の環境性能に関する主張は、明確かつ客観的で一般に公開され、詳細かつ現実的な実施計画に基づく実証可能なコミットメントに基づき、かつ独立した第三者の専門家によって定期的に検証され、その結果が消費者に提供されない限り、禁止されます。
上記は一部を抜粋したものであり、禁止事項等は他にもある点、注意が必要です。
3. グリーン・クレーム指令
グリーン・クレーム指令(GCD)は、環境主張の広告を出す前に、環境マーケティングのクレームに関する証拠の提出を企業に義務付けるものであり、ECDに基づくグリーン・ウォッシュの規制を補完するものになります。同指令は、消費者が購入する製品の環境認証に関する信頼できる情報へアクセス可能にすることを目的として2023年3月に提案され⁴⁾、審議がなされていましたが、2024年3月21日に欧州議会により採択がなされています。今後、2024年6月に実施される欧州選挙後の新議会で更に同指令案の審議が行われることが見込まれ、内容については変更がありうるものの、現時点で同指令で定められる項目には以下のものが含まれます。
明示的な環境主張に関する要求事項(立証・伝達・検証)
明示的な環境主張に関するアセスメントの実施と立証に関する要件:事業者は、明示的な環境主張を行う場合、これを立証するために、以下の内容をクリアする必要があります(一部抜粋)。
1.環境主張の対象となる製品やサービスが環境に及ぼす影響や、環境
パフォーマンスがライフサイクルの観点から重要であることを実証
すること
2.環境パフォーマンスについて主張する場合は、それらの評価に重要
なすべての環境への原因や影響を考慮すること
3.当該主張が製品全体または一部のいずれに関わるものか、企業の全
活動または一部の活動にいずれに関わるものかを特定すること
4.気候変動、資源の消費、水資源の保護等に有害な影響がないことを
確認すること
また、ある製品が他の製品または他の事業者よりも環境への影響が少ない、または環境性能が優れていることを明示する場合(比較環境主張)には、評価に同等の情報・データを使用すること、同じ仮定を用いること等の追加の要件を満たすことが求められます。
さらに、明示的な環境主張は、第三者機関による検証を受ける必要があります。環境主張の伝達に関する要件:明示的な環境主張は実証された主張のみを対象とし、製品または事業者にとって重要であると特定された環境への影響または性能のみを対象とすること、URLまたはQRコード等を用いて情報を開示すること等が求められます。
環境ラベル制度の要件:環境ラベルの認証のスキームとして、透明であること、要件が科学的に確実であり社会的観点からも適切であること、苦情および紛争解決制度が設けられていること、不遵守に対処する手順と違反した場合の取消手順が定められていること等の要件を定めることが求められています。
グリーン・クレームへの対応(PEFの活用)
グリーン・クレームを行う企業は、環境への影響を評価する標準的な方法論として、製品環境フットプリント(Product Environmental Footprint:PEF)と呼ばれるEUの単一の手法を使用し、その主張を実証する必要があります⁵⁾。PEFは、製品の環境への影響を定量化するための手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)に基づいた方法論であり、原材料の採掘から製造、使用、最終的な廃棄管理に至るまでのバリューチェーン全体を通して、製品や組織の環境パフォーマンスを16の環境影響カテゴリーを用いて測定するものです。
製品やバリューチェーン全体で使用されるLCA手法はいくつかあり、その多くは国際的に定められた基準になります。しかし、同じ製品に対して異なる方法論を用いると、結果が異なる可能性があります。
PEFは、こうした矛盾に取り組むため、EUで調和された手法を導入することを目指しています。
環境ラベルおよびラベリング制度に関する要求
「環境ラベル制度」とは、製品、プロセス、取引業者が環境ラベルの要件に適合していることを証明する認証制度と定義されます。
グリーン・クレーム指令では、これらの環境ラベル制度は、制度の所有者や制度目的、制度の監視手続等に関する 情報に透明性があり、無料で入手でき、理解しやすく、十分に詳細であること、また、科学的確実性を確保できる専門家によって策定された制度であることなど、一定の要件を満たす必要があります。
環境ラベル制度の数の増加を制限することが本指令の目的の1つとなっていることから、本指令が国内法に移管された日から、環境ラベル制度は国内法(すなわち本指令案)に基づいてのみ創設することができ、EU 各国が新たに国や地域の環境ラベル制度を設けることはできません。
つまり、国内法に基づいて設立された環境ラベル制度に基づき付与された環境ラベルのみが、当該製品又は取引業者の環境影響の集計指標に基づき評価・スコアを示すことができ、以前から設置されていた国や地域の環境ラベル制度は、国内法となった本指令の要件を満たしている限り、欧州市場で環境ラベルの付与を継続することができます。
反対に、グリーン・クレーム指令の要件を満たしていなかった環境ラベル制度は廃止されていくことになります。
本指令には、第三国の公的機関が設立した環境ラベル制度に関する規定も含まれています。第三国の公的機関によって新設された環境ラベル制度は、EU 市場に参入する前に欧州委員会の承認を受けることが必要とされ、域内の既 存の公的な環境ラベルへの付加価値が認められる場合に承認されます。この規定は、EU 内及び第三国の民間事業者によって新設された環境ラベル制度にも適用されます。
以上が、現在の欧州におけるグリーン・ウォッシュ規制の動きでした。
2章でお話ししたECDは、消費者保護の視点から不公正な慣行と戦い、より広範なアプローチを取っていますが、3章のGCDは、特に環境に関する主張の透明性と信頼性に焦点を当てた指令です。
どちらも、グリーンウォッシングと戦い、消費者がより環境に優しい選択を行えるよう支援することを目的としています。
日本企業ができること
欧州で展開されている様々なグリーン・ウォッシュ規制に対応するために、日本企業はまず、EU 域内でECD指令およびGCD指令の適用対象となるような明示的な環境主張や環境ラベルを使用しているか否かの調査を行う必要があります。
また、PEFなどの欧州で適用されるLCA手法についても情報を収集し、自社の製品評価に積極的に取り入れていく必要があります。
さらに、このほかにも欧州ではバッテリー規制なども動いているため、該当製品を製造・販売している企業は、そのあたりも併せて確認していくことが重要になってきます。
※欧州域外でもグリーン・ウォッシュに関する規制の動きは活発になってきているので、グローバルに製品を製造・販売している企業は早め早めに情報をキャッチしていく必要がありそうですね。
色々と情報収集が必要になってきていますが、頑張って食らいついていきたいところです。
それではまた!