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帰る家
朝から、何しても、不快な気分になる。
うどん処の中華そばを食べに行っても、入り口付近に座るから、客が出たり入ってきたりで、なんか寒い気分になるし、太陽が照っていたので、公園のベンチに座りに行くと、いつもの特等席を取られていて、ぼくは、木陰に隠れて、いちごミルクを飲んだ。
寒い!木で隠れて、太陽の光が当たらないじゃないか!
友だちに、相談した。
「朝から、こうして、なんか知らんけど不快やねーん」
友だちは
「それは、神経過敏になってるね。今日は、一日、外に出んと、うちでお茶でもしとき」
と言った。
ところが、今日は姉に父の介護を頼まれている。
どうしよ。
とりあえず、施設に行った。
父は、入浴中だった。
父のベッドの横にフローリングの床があって、カーテンで仕切られている。
ぼくは、もう、どうでもいいや!と、コートを枕代わりにして、床に寝転んだ。
父の施設は、温度も調整できていて、ちょうど寒くない温度だった。
そのまま、寝てしまった。
カーテンの外から、壁をトントントンと叩く音が聞こえた。
「あー、びっくりした」
介護士さんが、父をお風呂から、連れてきてくれて、ぼくのみだらな姿を見て、驚いていた。
せっかくのお風呂。この寒いなか、散歩に出て、風邪でもひかすとヤバいと思い、おやつの食事介助だけにしておいて、あとは、ベッドに寝といてもらった。
いわゆる、手抜きだ。
姉に、もっともらしいことを言って、報告しておいて、ぼくは、施設を出た。
寒い。寒くて、寒くて、こころが折れそうだ。
バスを待った。
十分、待っても来なかった。
なにしてんねん!と、近所のコンビニのトイレに行った。
帰ってくると、そのバスがもう、発車するところだった。あ。もう、遅いわ。
徒歩で帰ることにした。
今日は、ついてへんな~。ぼくが、まねいたことなんやろか。
帰る途中で、ジーンズをはいた、おじいさんとすれ違った。おじいさんは、よっ!と手をあげ、えっ?と言うと、さむいな!とだけ、言って、通り過ぎて行った。
神経過敏のせいだろうか、不思議なことを考える。
とても気になった。
ぼくの、将来は、あんな、おじいさんになるんだろうか。
おじいさんは、ひょっとして、自分の若いころと、いまのぼくを重ねて、あいさつしたのかも知れない。
帰って、もうすぐ、家に近づくと、顔がほころんできた。
一人笑ってる。
通りすがりのひとたちは、変な目で見てただろう。
寒い!
帰ってきて、お母さんの仏壇を見ると、おもちゃのろうそくの灯りがついていた。
あ!つけっぱなしやった。
お母さん、怒ってはったんやわ。
ごめんな、お母さん、寒いな~
と言って、ろうそくを消して、ファンヒーターへ直行。
そして、牛乳を飲み、今日は、もう、どこにも出かけないぞ!と誓う。
帰る家があって、良かった~。
お父さんも、帰る家に帰れないし、病院にいたころ、お母さんは、家に帰れなくて、どう思っていただろう。
帰ってこれたんだ。
もう!ゆっくりしとこ!と、皿洗いをはじめた。