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第五章 あとがき

もくじ 943 文字

 章タイトル 「変若水」 は、「おちみず」 と読みます。「若返りの水」 という意味です。

 ここでは、「思春期の終わりについて」 のバックグラウンドについて少し触れておきたいと思います。実は、この文章は、何の手がかりや見取り図もないところから書き始めたものではなく、ヒントになる考え方が、先立ってありました。それは、「ミッドライフ・クライシス」 というもので、当時から広く知られていたと思います。「ミッドライフ・クライシス」 は日本語に訳せば、「中年の危機」 ですが、言葉の通り、概ね三十代後半から四十代にかけての時期に、心身の不調をきたしやすいということを言っています。これを最初に提唱したのは、ユングだと思います。ユング自身が中年期に心の変調をきたしたことと、彼が診ていた患者にそういう人が多かったことから、中年期が人生上の重要なエポックになるのではと考えるようになったようです。
 「思春期の終わりについて」 に書いた状況に私が直面したとき、まず思い浮かんだのは、この 「中年の危機」 説でした。もちろん、当時は二十三歳という若さでしたので、この説が自分に当てはまるとは思いませんでしたが、人生には節目が存在するのだということを実感しました。厳密に言えば、私の言う節目とユングの主張するところのものは違うのですが、「思春期の終わりについて」 で書いたことと重複してしまいますので、ここでは繰り返しません。ただ、人生における節目は一つだけではない、ということを強調しておきたいと思います。
 似たような主張として、例えば、エリクソンは人生を八つの発達段階に分けました。二十代前半は、青年期と成人期の境目に当たります。ただ、エリクソンが重視したのは青年期におけるアイデンティティーの問題であり、青年期の終わりという節目の部分ではありません。青年心理学等でも、取り沙汰されるのは、多くが思春期の問題であり、思春期の終わりに焦点が当てられることは、あまりないように思います。私の主張が世の中に受け入れられるかどうかはわかりませんが、経験したことを書き残すことは自分の責務だと感じておりますので、今後の章において、書けるだけ書いていこうと思っています。

二〇二五年 一月三日。海辺の公園にて。

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鈴木正人
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