映画・東京物語
巨匠・小津安二郎の名作。
実は小津作品を初めて観ました。
邦画、それも白黒映画。
中々敷居が高くなりがちですが、観始めてしまえば引き込まれてしまって、思い返しても白黒だったっけ?というくらい全てが鮮明に残っています。
何が良いって、脚本なんですかね?
もう、観終わった時の余韻たるや、ちょっと他にないレベルで、所帯を持つ大人であれば、まず間違いなく感銘を受けると思います。
ぜひ、ご自身の一番好きな作品を観終わった時の余韻と比べてみて欲しい。凄いです。
戦後の復興が随分進んだ頃。
齢70前後の老夫婦が、東京で暮らす子供達の所で数日過ごす為に、岡山から上京してくる。
医者になった長男、美容室を切り盛りしている長女、戦争で亡くなった次男の嫁。皆が出迎えてくれて、初日こそ楽しく過ごしたものの、皆忙しくしており、、、。
子供たちの東京での生き方。
親にとっての子供。
子供にとっての親。
どこにでもあるような、理想とは程遠い現実。
「人としてこう有りたい」と思う反面、
自分を振り返ってみると、「まぁ、こうなってしまいがちだよなぁ」という、反省に似た、複雑な気持ちになりました。
映像や音声は、古臭さが否めませんが、音楽とカメラワークがすごく良くて、話の展開も「え、これどうなるの?」と引き込まれてしまい、あっという間に終わってしまいました。
東京で羽振りの良い生活をしている息子たち。周りからは子育てに成功したと言われるが、本当にそうなのか?
常に笑みを絶やさず、
「いやぁ」としか言わないお父さんと、
「そうですねぇ」としか言わないお母さん。
感情を表に出すことがない二人が、この東京旅行で感じたこと。
セリフのないシーンに溢れかえる情緒がもう!
とにかく凄い。
私の大好きな映画で「アマデウス」という有名な作品があります。天才モーツァルトを目の当たりにした宮廷音楽家サリエリの、驚嘆と絶望、嫉妬と憎悪を描いた作品ですが、サリエリの激しい感情が自分の心の中を駆け巡る、もの凄い作品です。
この「東京物語」はそれ以上に、溢れ出てくる静かな感情のプールに浸っているような?
決して激情ではなく、寂寥や諦観、敬意と感謝、穏やかな、微妙な心の揺らぎを感じながら、
浸っているような、沈んでいくような感じ。
そして、最後、私はとても救われた気持ちになり、涙を堪えられませんでした。
名作と言われるだけあって、すごい体験でした。
小津安二郎作品は他も観てみたいと思います。
ホント良かった。
最後にネタバレ
ラスト、お父さんが次男嫁に感謝を伝えるシーン。
末娘が仕事中にチラチラ時間を気にして、去っていく汽車を窓から気にするシーン。
貰った時計を観て次男嫁が微笑むシーン。
最後に畳み掛けるように、日本人として当たり前に思っていた「人の善性」が肯定されていて、救われた気持ちになりました。
涙が止まりませんでした。
きっと次男の嫁さんは、死んだ次男君の存在が自分の中で薄まってしまう事を恐れていたのだと思います。
段々と次男君が居ないことに慣れてきている自分。
次男君を忘れて幸せを謳歌する未来の自分を嫌悪したのかもしれせん。
新しい一歩を踏み出せなかった彼女がどう救われたのか?
ご両親と心を通わせ、時計をもらったことで、確かな絆を感じられた。
決して無くならない絆ができたからこそ、新しい人生を踏み出す勇気を持てたのかなと。
そしてお父さんも、もちろん子供たちの幸せを願いながら余生を過ごすのだと思いますが、
その中でもとりわけ、末娘と次男嫁の存在が彼の心の支えになるのだろうと思えてなりません。
二人の幸せを心から願い、良い知らせがあれば我事のように嬉しい気持ちになるのだろうと。
本当に良い作品でした。
生涯ベスト5が入れ替わるかもなぁ。
良く考えてみます。