【読書感想1】毎日は書けない(市街地ギャオ・衿さやか)
Xで読書感想文を書こうとすると140文字では足らず、読み専だったnoteに綴ってみることにしました。
文学界(2023年6月)に『泡のような きみは ともだち』が掲載している衿さやかさんと、2024年太宰治賞を勝ちとった市街地ギャオさんの共著です。大阪文学学校の友人とのこと。
お二人の短編小説にくわえ、エッセイと、往復書簡(!)もある盛りだくさんの内容。
① 短編小説 テーマは「宝物」
・市街地ギャオさん『子供たち』。
ポケモンのようなスマホゲームを生きがいとする、40代半ば男性である常田(つねた)のお話。
人生への文章解像度がめちゃ高いっ・・。
必死に勉強して若いころはエリートだった常田の鬱屈ぶりよ。
『アプリはこの先死ぬまで緩やかに下降していくだろう日々をいなすための強固なシェルター』や、自分のことを『ひと回りも年下の正社員の指示を受けて、マニュアルで決まった動作を実行するだけの、出来損ないの機械みたいな人間』という文章たちがハートに刺さりました・・。
あと、あとがきで
■テーマ選定理由に「明るい空気になるといいな(衿)」とあり、その次の
■書きおえてで「明るい空気にできませんでした(ギャオ)」とあったのは思わず笑った。
文学って重くなる磁場があるのかもしらん。
・衿さやかさん『お皿の上の宝物を見せて』
息を呑むほど素晴らしかった、、
都会の喧騒のなかはたらく主人公は父の故郷、離島でくらした時のことを思いだす。
もー、島での情景描写がすごいのよ。「人って想像力でここまで書けるものなの?」と愕然としました。
地面に一升瓶を置いた漁師たちが飲酒しながら、都会っ子の主人公に声をかけて怯えさせるシーン。真っ黒な画用紙一面にこぼれた白い絵の具のような点々の星々、まぶたを閉じても目の裏に夜がこびりつく、など。
また根本的なことだが文章が流麗なの。新作ごとにいつも素敵なフレーズをもらう。
『風鈴が、CMソングのうしろで微かな音をたてた』とか、お好み焼き屋の『鉄板から立ちのぼる匂いが、髪の毛一本一本に絡まる』など。やはり衿さんの作品は好みだ。
②エッセイ テーマは「本」
ギャオさんが大阪文学学校の門戸をたたいた経緯と心境を興味ぶかく読んだ。現状、小説と望ましい関係になったようで微笑ましい。
衿さんの読書遍歴、楽しかった!
夏目漱石も芥川も当初はよーわからんかった、という素直な独白も良き✨。
また、自分の好きな作家さんの話がでると嬉しくなります。星新一さんよく読んだので「そーですよね×2」と共感の嵐。
そこから江國香織さん、村田沙耶香さんなどの純文学へ飛びこんだ感想も頷きながら読んだ。
③往復書簡
こういう形式はあまり読んだことなく。斬新だと感じた。
昔だと手紙のやり取りの記録だろうが、今はメールのやり取りなわけで。
ギャオさんも衿さんもお互いを尊敬しているのだが、「褒めあい」にはならないようにしよう、と線引きをしっかりしている。
そんな二人のやりとりには、冷静な観察眼による人生への気づきや問いがにじみ出る。
『みな違和感と向かいあいながら日々をいとなんでいる』とか『自分の生活のなかで一瞬でも他の誰かを思い出すのは難しいこと』というような。
そして、僕は小説とは何か? への言及にも感心した。
『小説の登場人物は書きあげた後も、ほんとうにその人がいるような気持になる』だったり、『おとずれるはずのない欲しいものたちのために、書いているのだな』とか。WEBであろうが本であろうが、物書きの心には反響するものがあるのではないだろうか。
そして、セミが鳴いているかいないかの下りに笑う。
ギャオさんのオチがよい。さすが二人とも生粋の大阪人だ。
④全体的に
小説やエッセイなど、それぞれの区分の後にあとがきを加えて
■テーマを選んだ理由、■書きおえた感想 などを書いているのも、箸休めになり読みやすい。
「小説」でどんなお話を書くかを知り⇒ 「エッセイ」で物を書くようになった経緯を教えていただき⇒ 「往復書簡」で人となりが分かる。
次第に筆者の内面を掘り下げる構成がいいなと。
いやー楽しい本だった! 出会うことができて良かった、、
お二人の「類のないおもしれーものを作るぜ」精神をひしひし感じた。子供時代のおもちゃ箱を漁って、いろいろな玩具で遊んだ気持ち! ありがとうございます<(_ _)>
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