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読書note: 2023年振り返り<泉鏡花編②>



📘『草迷宮』

『草迷宮』は明治41年発表。『婦系図』『歌行灯』と同時期の30代後半〜の作品です。神奈川県・三浦半島の魔所が舞台。村の庄屋のお屋敷で次々と起こる怪奇現象を描く怪談、神隠しや手毬唄(「通りゃんせ」)をモチーフに繰り広げられるノスタルジックで幻想的な雰囲気や、母親・女性思慕のイメージなど、とても鏡花らしい作品だと思います。幻想的な言葉が紡ぐイメージを繋いだ、色鮮やかな万華鏡のような白日夢の世界に、ふわふわと漂っていくようなラストが気に入っています。
さまざまな丸いモチーフが象徴的に使われていて、物語の中を転がっていきます。読みながら一つ一つ探していくのも面白いです。

「夢とも、現とも、幻とも……目に見えるようで、口には謂えぬ――そして、優しい、懐しい、あわれな、情のある、愛の籠った、ふっくりした、しかも、清く、涼しく、悚然(ぞっ)とする、胸を掻(かきむし)るような、あの、恍惚(うっとり)となるような、まあ例えて言えば、芳しい清らかな乳を含みながら、生れない前(さき)に腹の中で、美しい母の胸を見るような心持の――唄なんですが、その文句を忘れたので、命にかけて、憧憬(あこが)れて、それを聞きたいと思いますんです。」

『草迷宮』(明治41年)

寺山修司監督で映画化もされている(←未見)有名な作品ですが、話し手が変わるごとに物語の視点が変わり、一貫した語り部がいないので、一読しただけではちょっと解りにくい作品ではあります。物語が進むにつれて種明かしはされますが、白日夢のような幻想的な夢語りで終わっていくので、人によって好き嫌いが分かれそうです。

春陽堂版での、洋画家の岡田三郎助が手がけた口絵や表紙も素敵です。(私は泉鏡花記念館の展示で見ました)ぜひこのままの装丁で復刻してくれたらな〜と思います。

口絵や詳しい書影はこちら↓

現在出版されている岩波文庫版には、菖蒲と明を描いたモノクロの口絵のみが掲載されています。また、現代浮世絵作家の方による、耽美的な装画があしらわれた単行本も出版されています。


金沢の「文豪カフェあんず」にて。
紙ふうせんというお菓子とドリンクの、鏡花セットをいただきました。


📘『鏡花紀行文集』

お気に入りの一冊です😊(現在は絶版のようなのですが。。。)
潔癖症だったり、火の通ったものしか口にしなかったり、晩年は車でしか外出しなかったとのエピソードから、出不精なのかと思いきや、意外と旅行好きな人であったようで、新聞社や雑誌の取材で割と頻繁に、遠くまで旅をしていたようです。また、旅先で得た素材が小説に生かされることも多かったようです。

東京日日新聞の『日本八景』の取材で訪れた「十和田湖」、プラトン社・大阪朝日新聞の依頼で、東京から出雲までの電車旅を描いた「玉造日記」(実際掲載されたのは兵庫まで)、「城崎を憶う」、のちに『竜胆と撫子』の舞台となる福島県・飯坂温泉を訪れた「飯坂ゆき」などが特に面白く、旅行に行きたくなる内容でした。(実際、昨年十和田湖と城崎温泉へ行ったときは、この本を持参しました。奥入瀬渓流〜十和田湖までのルートを、バスとフェリーで同じように辿って、とても楽しかったです)

自然の風景や情景の表現が目に浮かぶように美しく、ところどころ笑いも挟んでテンポ良く進むところは、流石ベテラン作家。いかにも長年連れ添った夫婦といった感じの、すず夫人との遣り取りも面白い。朝から熱燗を一杯二杯やって、旅を楽しんでいる風だったり、特急の食堂車や展望車の様子を嬉々として、細やかに描いているのが、読んでいても楽しいです。(『別冊太陽 泉鏡花』というムックには、「十和田湖」取材時に撮影されたカンカン帽姿で幌付きのオープンカーに乗る、楽しげな写真が掲載されています)バスケットの中身や旅館の様子、人々の服装の描写などには、大正〜昭和初期の旅行のスタイルがうかがえ、勉強にもなりました。


📘番外編:『水木しげるの泉鏡花伝』

ゲゲゲの水木しげる先生による、詳しくて面白い鏡花の伝記。鬼太郎のアニメを見て育って大好きだったので、かなりお気に入りです。師匠の(尾崎)紅葉先生の最期のシーンがやたらとカッコいいです。
『黒猫』『高野聖』の漫画も収められていて、1冊で二度美味しい作品になっています。(『高野聖』には、あの有名キャラクターが富山の薬売りで登場します🐭) 結構大人向けの、ダークで艶っぽい描き方です。
鏡花作品は文章が読みにくくて・・・という方にもおすすめの一冊です。(↓ amazonの価格が反映されていて高いですが、実際は中古で1000円程度です)


まだまだお気に入りの鏡花作品(『婦系図』『竜胆と撫子』など)はあるのですが、長編なので、もう少し読み込んで、また改めて書きたいと思います。
芥川龍之介や三島由紀夫など、のちの文豪たちにも影響を与えた鏡花文学、興味ありましたら、皆様もぜひ読んでみてくださいね。読みやすい現代語訳もあるようです。

拙い感想をお読みいただき、どうもありがとうございました。


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