「ナイジェリアからの手紙」 亜種・ことの始まり~国際詐欺?顛末 (1)
国際ロマンス詐欺の被害が増えて、最近は大手メディアも注意喚起をするようになった。2022年には、ガーナで国際ロマンス詐欺に関与していたとされる日本人が、大阪府警に国際指名手配されて逮捕されている。国際詐欺を主導する日本人が出てくることで、さらに日本人の被害が拡大するのかもしれない。
そんな中、久々に「ナイジェリアからの手紙」の亜種というようなメッセージが届いた。
普段は、この手のEメールは「迷惑メール」に振り分けられるので、中身を目にすることはない。メーリングアプリの迷惑メールの選別精度が上がったせいか、ここ数年はこの手のEメールに煩わされることは減ったと思う。メッセージングアプリにテキストメッセージで届いた場合は、無視して、少ししたら削除している。
今回は、Eメールではなく、私がチューターとして登録している海外の語学のプラットフォームから、「日本語を勉強したい」という学習者(生徒)候補として連絡がきた。このプラットフォームは海外のもので、たまにこういった「迷惑メール」的なものが届くことがある。
最近、この語学プラットフォームでは「英語‐日本語の翻訳を必要としている」という仕事の依頼めいたメッセージがたまにある。この手のものは、二言目には 「Telegram で連絡をとろう」と提案してくる。
私は、Telegramと言い出したら無条件で無視することにしている。
本当に仕事を依頼したいなら、Eメールや他のメッセージングアプリを使えば足りる。まともな仕事の話を、「一定時間が経ったらメッセージ自体が消えてしまう」Telegramを使ってするメリットはない。Telegramを使ったコミュニケーションがすべて犯罪絡みだというわけではないが、私にとっては必要のないアプリだし、翻訳の仕事ならいくらでもフリーランスを募集できるプラットフォームがある。外国語を学びたい人と教える人とを結びつける語学のプラットフォームで、チューターに対してそんな依頼をすること自体が、私の基準では既にレッドフラッグ(危険信号)だ。
ことの始まりは、2023年9月1日のメッセージだった。そこから現在(10月29日)に至るまでEメールのやり取りがある。
スロバキア人のアダム(仮名)という男性が、語学プラットフォーム上で、「日本語を勉強したい」旨を入力し、メッセージ欄でこう言ってきた(原文ママ)。
私は日本人だが、現在はベトナムで暮らしている。アダムは、「ビジネスのためにあなたの国に行く計画があるが、助けが必要だ」と言うものの、それが日本のことなのかベトナムのことなのかわからない。
この語学プラットフォームのチューターとしてのプロフィール欄には、私がベトナム在住であることを明記しているし、自己紹介ビデオの中でも英語・日本語で話している。
アダムの問い合わせ内容では、「Eメールアドレスを教えてくれたら、計画の内容と、何を手助けしてほしいかを送る」となっていて、連絡先のEメールアドレス(outlook.comのもの)が記載されているのみで、詳しいことはわからない。
アダムは、この最初のメッセージで、自分の住所を番地まで送ってきた。スロバキアの首都・ブラチスラヴァに住んでいるという。
アダムは、語学プラットフォーム上での最初のメッセージで、自分の名前の綴りを間違えていた。詐欺を疑う場合、これも大きなレッドフラッグであることは、「ナイジェリアからの手紙」を知っている人の間では共通認識だ。怪しい。
アダムはまだ何も要求してきていないので、この時点ではアダムが詐欺師なのかどうかは判定できない。しかし、いくつかのレッドフラッグが上がっていることは間違いない。
私はScam Prank(詐欺師をからかって、面白がってyoutubeなどソーシャルメディアで発信する行為)をするつもりはなく、どちらかというとScam Baiting(詐欺師の相手をする中で詐欺師側の情報を集めて通報する行為)の方が興味がある。これらの境界線はハッキリしないし、どちらにしても詐欺師の相手をすることは、詐欺師の側の技術をを高めてしまう、より巧妙な詐欺師を育成してしまうことになるとして、批判的な見方もある。
私は詐欺師を育成するつもりはない。だが、もしアダムが詐欺師なら、私が連絡を取ることで、彼がなんらかの新たな知識を得て、より手口を巧妙化させるかもしれない。
とはいえ、いくつかのレッドフラッグが上がりながらも、まだアダムが求めていることが何なのかわからない。詐欺ではないかもしれない。
語学プラットフォームでも、男女の出会いを求めるサイトでも、「ライドシェア」でドライバーと旅客をマッチングするサイトでも、問い合わせや関心表明があった際に無碍に断ると、断った側の評価を下げられてしまうことがある。理不尽なこともあるが、現代の「評価経済社会」では致し方のないことなのだろう。
さまざまな考慮要素があるが、私はとりあえず、連絡を取ってみることにした。
この語学プラットフォームでは、レッスンはSkypeやZoomなど外部のアプリを使うことになっている。もとよりプラットフォーム内でメッセージのやり取りを完結することは求められておらず、チューターと学習者はプラットフォーム外でEメール、テキストメッセージ、その他の連絡手段で勝手に連絡を取って構わない。
私は、他の学習者との連絡ではgmailを使い、レッスンではZoomを使っている。アダムからの問い合わせは、通常の学習者からのものとは毛色が違っていたが、これまでの他の学習者のときと同じように、アダムが伝えてきたEメールアドレスにgmailアカウントから連絡をした。要約すると以下の内容だ。
あくまで日本語チューターとしての応答をし、それ以外の仕事の依頼の場合は別料金だということがわかるようにした。
さて、どんな「ビジネスの計画」とやらを言ってくるだろうか。楽しみに待っていたら、20時間後に返信があった。内容は次稿で紹介する。