ビデオチャット打診~国際詐欺?顛末 (5)
【前の記事までの経緯】
自称スロバキア人のアダムは、私からの質問に答える形で、24Kのインゴッド(延べ棒)300㎏をスロバキアからオランダ大使館ご用達の外交クーリエ便で日本に送りたいと言う。ついては、私のパスポートのコピーなどの公的に認められたID、日本の住所、電話番号を教えてほしいとのこと。そして、自ら先んじてスロバキア政府発行のIDカードの画像を私に送ってよこした。
【私からの返信】
アダムは私からの質問に答えようとしてはいたが、そのた内容は、私のように外国でビジネスのコンサルタントをしている者からすると、稚拙で笑えるものだった。そこで私は、彼にとって新しい情報を出してやり、いかにアダムが言っていることがアホらしいかを示し、かつ、こちらから要求したコンサル料2,000USDを1,000USDに値下げして反応を見ることにした。
あなたの計画ではうまくいかない。理由をいくつか説明する。
1.日本での税関申告
現在(2023年9月2日)の日本での金(24K)の取引価格は1gあたり約1万円。300㎏の金地金を輸入する場合、税関で10%の税、つまり約3億円(約1,910,828EUR)を納めなければならない。私は払えない。
2.日本での金地金の売却
「金地金なので『マネー』ロンダリングではない」という言い訳は通用しない。日本でこれほどの量の金地金を売却するには、犯罪収益移転防止法に従って、取引目的、金額、出所などの取引内容を申告しなければならない。あなたが思うほど世の中は単純ではない。
3.現金化したものをどうスロバキアに送るか
仮に日本への金地金の輸出と売却がうまくいったとして、得た現金をどうやってスロバキアへ送るつもりなのか。それとも、日本で何らかの事業を立ち上げて投資するつもりなのか。
4.問題解決のためのコンサル料
私はプロのビジネスコンサルタントで、通常は着手金なしでナレッジを提供することはない。私は既に上記の助言をあなたにしている。成功報酬として30%を渡すという約束は、私にとって何の意味もない。
あなたがIDカードのコピーを送ってきたのはあなたの勝手だが、それらが偽造や窃取したものである可能性もある。あなたが実在の人物で、言っている計画が本当かどうかは一つも証明されていない。私が住所を教えてあなたが金地金を送ってきたら、私には3億円の税を払わなければならないリスクがある。さまざまなリスク回避のための調査の費用を払ってくれ。1,000USDで構わない。
もし、私が調査をしてこのビジネスには問題がないと判断したら、成功報酬は30%も要らない。10%で十分だ。
5.ビデオチャットで金地金を見せてくれ
あなたと金地金が実在することを確認するため、ビデオチャットをしよう。
いずれにしても、あなたが知らない日本の法に則って、計画を修正しなければうまくいかない。
アダムは、「外交クーリエ便を使うから、税関申告や輸入手続きを潜脱できる、だから税はかからない」という理由で、私には税を納める負担をかけることはないと主張していた。
私は、前のEメールで「そちらで輸出をする際に外交クーリエ便を使うのは勝手だが、こちらは日本での手続きは法令に従って行う」と答えている。
日本では、海外から金地金を輸入する場合、事前に輸入許可申請を出し、税を払わなければならない。「外交クーリエ便」などという国際詐欺で頻出する手法は現実にはあり得ないし、申告や納税を免れることはできない。
今回は、こちらから「2,000USD」と設定していたコンサル料(調査費用)を、1,000USDにディスカウントした。ドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれる手法だ。
普段、私は、東南アジアを中心に日本人、日系企業の事業展開をサポートしている。販路開拓支援も、業として行っている。仕事柄、「この商品を東南アジア市場で売りたい。成功報酬型でセールス活動をしてもらいたい」という人に出会うことは多い。
こちらがもともとその商品やサービスに関心を持っていて、代理店としてそれを売りたいと希望しているなら別だ。しかし、初めて聞かされる商品やサービスについて、「あなたは東南アジアの市場に詳しいようだから、うちの商品のセールス活動をしてほしい。でもセールス活動費は払わないけどね」というのは、「お前は俺のためにタダで働け」と言っているようなものだ。非常識としか言いようがない。ところが、実際にこういう人はとても多い。
話が逸れるようだが、このように「成功報酬型」で他人にものを頼む人たちの事業は、成功しないことがほとんどだ。市場調査、販路開拓に費用をかけず、セールス活動すら誰かにタダ働きをさせようというのでは、うまくいくはずがない。だから私は、普段から「成功報酬型で」と言う人に対しては、厳しい見方をしている。言い換えると、私には、そういう人たちに対して、敵意帰属バイアスが既にある。
私はアダムに対しても、普段どおり調査費用の事前払いを求めた。私の持つ敵意帰属バイアスが、アダムに対する警戒心を緩めることを拒んだ結果である。
アダムは、国際インターネット詐欺のレッドフラッグ満載のEメールで、「成功報酬型」で私に個人情報の提供などを依頼してきた。試しに、「あなたの言っているとおりなら調査が要るので、先に送金してくれ」というのは、当たり前だろう。詐欺ではない、実在する本物の計画だというなら、調査費用を払う形で計画遂行の真剣さを示してもらいたい。逆に、金をもらう以上、こちらもコンサルタントとして責任もって仕事をしようではないか。
しかし、思えば詐欺師とは、何なのか。
私の普段のコンサルタント業の中で、ふらっとやって来て「成功報酬型」で私に無償作業を依頼してくる人は、アダムと同じくらい詐欺師的とも言える。しまいの果てには、共同事業としてやりたい、出資してくれと言い出す人も数多いる。東南アジアで日本人相手にコンサルタントをしていると、そんな人ばかり来るので困惑することが多い(仕事上の付き合いの中で「困惑」の語を使うとき、ほとんどの場合、「迷惑」という意味だ)。
話を本筋に戻そう。アダムに対してはもう一つ提案した。こちらの要求を受け入れるなら、成功報酬はアダムが言っている「30%のコミッション」ではなく、「10%で十分だ」というものだ。
2,000USDの着手金を1,000USDに値下げし、さらに30%のコミッション(アダム計算で約6億5千万円という提案を、10%(約2億1千7百万円)に下げるという逆提案だ。これも、アダム側に返報性を働かせるためのものだ。
しかし、このように具体的な提案をするのは、プロのScam Baiter(詐欺師の相手をする中で詐欺師側の情報を集めて通報する人)ではない素人の私には危険な側面もある。前の記事にも書いたが、具体的な私の取り分の数字を考えるようになってしまうと、もともと架空の詐欺話だという認識から、「これだけの報酬が実際にもらえたらいいな」という想像に進んでしまう。「もらえたらいいな」が「もらいたいな」に変わったとき、確証バイアスが生まれてしまうのだ。
自分の心の動きには敏感でなければならない。
私はビデオチャット(テレビ電話)で話すこと、金地金を見せることを要求した。一般的に詐欺師はビデオチャット(テレビ電話)を嫌う。さて、アダムは何と言ってくるか。
すると8時間後、また長いEメールが届いた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?