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「がん家系」ではなく「がん習慣」。生活習慣を見直そう。

株式会社フェアワーク代表の吉田健一です。

本noteの記事は、元参議院産業医が紐解く!「健康経営関連ニュース」としてまとめてきましたが、経済産業省がリードする「健康経営」以外にも、厚労省が管轄する「治療と仕事の両立支援」など、産業医を含む産業保健スタッフが、職場と労働者の中立的な立場でサポートをおこなう分野は数多くあります。

ここで言う「両立支援」の対象となる疾患の、第1に挙げられているのが「がん」ですが、体感的にもアンケート調査などでも、精神科医が支援できる余地は大きいと思われます。またがんは、旧来のイメージである「死に至る、忌み嫌われる病」から「人口の半分以上が一生の間に一度は罹り、治療や療養と社会参加の折り合いをつけてゆく病気のひとつ」となりました。

私自身、確か10代の頃に柳田邦夫の『ガン回廊の朝』や『ガン回廊の炎』を読んで、当時はまだ「本人にさえも告知しない」とか「亡くなった理由を近所にも知られたくない」と恐れられていた、癌の治療医となることこそが、医師としてごく自然な選択肢であるように感じられ、医学部の卒業時には、消化器系の分野に進もうかと少し迷ったものでした。

結局は精神科を選んだのですが、千葉県精神科医療センターの医長時代に、千葉県がんセンター緩和医療科の医長を兼任させてもらい、短い期間ではあったものの、がん治療と精神行動医学(精神科)の境界領域で働くことができたのは、私の職業生活において大きな経験となりました。

さて、子供のころから私の印象に残っているフレーズに「がん家系」があります。30-40年前まではどの家庭でも、知り合いが亡くなり、かつその理由がどうやらがんだったらしい、となると、「あの家はがん家系だから」または「あの人はがん家系じゃなかったのに」のような会話が交わされていたように思います。

おそらく、子供ごころに「がんは遺伝するんだ」と強く印象付けられたのは私だけではないはずで、その証拠に、医学部入学時の自己紹介で「私はがん家系で、実は両親も・・・」と皆の前で話した某さんの挨拶に、「そうか、きっと〇〇さんはがんの専門医を目指しているのだな」と一同、妙に納得した出来事がありました。

30年近く前の医学部新入生の、今となってはほほえましい誤解、とも言えるのですが、この「がん家系」の誤解は、今もいくぶん世に残っています。

私もともすると、近親者でがんで亡くなった方がいる、と患者さんから聞くと「じゃあ△△さんもがんには気をつけなきゃね」と生活指導してしまうのですが、実は「がん家系」との考え方は、無用の誤解や油断・差別を生むことから、今となっては、医師としては慎むべきものとなってきました。

そもそも、男性の3人に2人、女性の2人に1人が生涯のうちにがんを経験するのですから、現代では「近親者がだれひとりがんに罹っていない」人を探す方が、困難かもしれません。

東京大学放射線治療学の中川先生によると、がんは「ほとんど遺伝しない病気」であり、むしろ生活習慣とりわけ食習慣や喫煙習慣の影響が大きく、かつ男性のがんの6割、女性のがんの3割は予防可能、とのこと、どんな病気もそうですが、「正しく恐れる」ことの重要性を改めて認識したいと思います。

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