催花雨
「椿ちゃん、変な格好してたよ」
先日母が、昔近所のおばさんにそう言われたことがあると思い出話をしてくれた。
小さい頃の私はファッションセンスなんてないくせに、自分が着たい服を自分が着たいように着たがったらしい。その日は少し肌寒かったからか、私はスカートの中に長ズボンを履いて出かけようとしたという。
「スカートとズボンを一緒に履いたらおかしいよ」
変な格好で出かけようとする私を母は止めようとしたけれども私はそれを振り切った。
しばらくして、その変な格好をした女の子が意気揚々と公園を走り回った。
そのときから10年くらい経って、スカートの中にズボンを履くスタイルが流行った。私のファッションセンスはかなり先を行っていたらしい。
先日、娘が聞いてきた。
「ねえ、ジャンバーを腰に巻くのってどう思う?」
最近はそのスタイルはどうなんだろう、少し前はみんなしてたけど。
「変じゃないと思うけど、若い子たちが見てどうなのかは分からないなぁ」
あの頃は先取りすぎるファッションセンスが光っていた私だけど、今や自信がなくて、歯切れの悪い返事を渡す。
それから少しして娘は「いってきます」と言いながらドタバタと玄関に向かった。
ドアをグイと開け、傘をバッと開いて、飛び出していく。
腰に巻かれたジャンバーがふわりと揺れた。
まだ肌寒い季節。
催花雨が降っている。
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日本語展に参加できる文字数に収まらなかったので不参加です。都道府県名も特に入れられる場所もなかったしね。あ、もしかして、もう期限過ぎてるのかもね。これが30日までだった気がする。
でも催花雨(さいかう:春、花が咲くのを促すように降る雨)って素敵な言葉だなぁと思って自分の文章に使ってみたくなりました。
ノンフィクションのような、でもちょっとだけフィクションも混ぜ込んだエッセイでした。