センサーと安全ベルト
娘ゆり(知的障害)の骨折をきっかけに起こった出来事や感じたままを介護者目線で綴った備忘録です。
ゆりは手術後の経過は順調で、体力の回復とともに次第に病院ベッドの生活に退屈してきた。動画やゲーム・パズルなどのおもちゃ類は入院前に準備してきたが、それにも飽きてきて、休息とリハビリ、検査の日課も限界だった。
トイレも付添人(私)のヘルプが遅いと、一人で移動しようとしてベッドから滑り落ちるインシデント。幸い大事には至らなかった。一瞬の隙だったが、私は看護師さんから一時も目を離さないよう怒られ、娘にはセンサーが取り付けられた。
娘は元気なのでセンサーは頻繁に作動し、そのたびにヒヤヒヤした。こちらの方が閉鎖病棟にでも隔離された気分。
看護師さんたちは一応こちらを遠巻きに観察する様子で、私の存在を確認すると安心して持ち場を離れた。
退院後も同様の状況が続くかもしれないと心配になり、自宅で洗濯ものなどちょっと目を離した隙に滑り落ちた際、車いす→ベッドへの移乗をスムーズに行う方法を理学療法士さんにたずねた。すると
「まずは、滑り落ちないようにすることが先決。お母さんが家事等で見守りができないときは、安全ベルトを装着すれば?」と提案された。
「安全ベルト!?」
遠い昔、特養ホームで車いすに安全ベルトを装着され、座って(座らされて)いる無表情の老人たちの姿をふと思い出した。(現在は、身体拘束として福祉施設などでは原則、禁じられている。)
リハビリ担当のかわいい理学療法士さんの口からそんな言葉が出るなんて…
ちょっと耳を疑った。
数日後、予想通り主治医から「お母さんが付き添いできないのであれば、この病院では看護はできない。その場合は転院しなければならない。」との説明があった。「どこの病院に転院することになるか?」と問うと、「精神科病院」との回答だった。
医療の名のもとに身体拘束は一般の病院でも容認されている。まして、精神科病院では、知的障害で意思疎通が難しい娘に対し、安全ベルトや拘束帯etc…抵抗なく用いられるだろう。
劣悪な環境の中、心身の悪化により、今後在宅生活はおろか、普通の障害者施設の生活も難しくなるかもしれない。
とにかく、退院までの何とか私が付き添い、乗り切ろう。
二人でがんばろうね!
先の見えない入院生活で私自身疲労は限界だったが、現状を変えるにはそれしか術がないように思われた。