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誰に1番見てもらいたいのか


「見てこれ、わたしの周平くんコミュニティ」
 
 推しのサポートギター周平くんのコミュニティを主人に見せる。参加者はわたし一人で、淡々と写真をあげ続けるだけのコミュニティである。

「これさ、投稿した写真に自分でリアクションつけられるから、朝起きて周平くんの写真投稿して「おはよう」ってつけるの。で、寝る前にまた投稿して「おやすみ」ってつけるの。めっちゃ楽しくないこれ? 毎日周平くんに挨拶できるよ。すごい!」

「あんたそれ寂しくないのか?」

「全然寂しくない、毎日周平くんに関われるから超楽しい! あまりにも楽しいから地下アイドルコミュニティに宣伝してきたわ」

「は?」

 地下アイドルコミュニティに入り、

【推しの紹介とは違うのですが、オタクの人って写真をたくさん持ってると思うので、自分で推しのコミュニティを作って、淡々と写真をあげ続けたら、その推しさんに興味を持った人が検索して見るのではないかなと思いました!
自分用の推しアルバムにもできるのでオススメです!】
 
 と書き込み、周平くんコミュニティを宣伝してきた。すると一人のオタクさんが「なるほど」とリアクションしてくれた。

「これはmixi2ならではだね。オタクが作る推しアルバム。絶対需要ある! まじでオタクはみんなやった方がいい。逆にここでオタクにアルバムコミュニティを作られないアイドルはやばいって思った方がいい」

「じゃあチャラ男は今地下アイドルコミュニティで有名人なわけか」

 地下アイドルさんが有名になったときに周平くんをサポートギターとして呼んでくれたらいいなと密かに期待する。

「ところでさ、ツイキャスってテレビ画面に映せないの?」

 周平くんの配信ライブはいつもはYouTubeなので、テレビに映して大画面で見ている。その設定は全部主人にやってもらっている。

「やる方法はあるけど知らん。てかあんた結局また現地行かなかったんか」

「だからベイマックスいるからやだって言ってんじゃん」

 周平くんに執着している女アーティスト(通称ベイマックス)があろうことか客としてまでわたしの周平くんのライブに出向くようになったので、わたしはチケットを買っているのに現地に行けないというなかなかの屈辱を味わっている。
 でも大丈夫! めげない! 
 まるで織姫と彦星のように、年に一回会えればいい、あなたを思い毎日天の川を眺める日々。そんな妄想を楽しんでいる。

「まぁツイキャス配信見てたんだけどさ、スリーマンライブなのに最前客が最初から最後まで変わらないの。もうその時点でお察しじゃん?」

「身内感バリバリだな」

 通常対バンだと、最前の客はアーティストごとに入れ替わる。というか入れ替わるのがマナー。
 まともな客なら自分の目当てのアーティストさんが終わった後に、「次のアーティストさんのファンのために前を譲ろう」と考えて、後ろに下がる。たとえ人気のないアーティストでファンが少なかったとしても、自分がそのアーティストのファンではなく、今後も推す気がないのなら、新規の人のためにも前を開けて、なるべく見やすくしてあげるもの。

 これが身内感の強いライブだと最前が全く変わらない。

 客はアーティストの関係者ばかりの固定客なので、楽しもう、盛り上げようで動く。サクラ雇ってんのかってくらい異常な空気である。
 
 「ちょっと興味あるな」「見てみたいな」と思った一般客を、ズラリと並んだ最前固定客が跳ね除ける。新規なんてつくわけないし、そもそも奴らには「盛り上げよう、楽しもう」という気持ちはあっても、「譲る」という気持ちはないので、アーティストと自分さえよければそれでいい。

 増える客は全てアーティストの関係者となり、ライブというよりはお遊戯会。一般客を受け入れないから、金回りも悪い。外から入ってこない。なのでますますアーティスト同士の絆を深めていく。
 わたしはこの状態の界隈を「アーティストの近親相姦」と呼んでいる。

「いやー、今回は初めて見る人もいたからワンチャンまともかなって思ってチケット買ったんだけど、やっぱり近親相姦だったわ」
 
 ライブをライブしている人に見せるなんて、小説を小説書いている人に見せるみたいな。それなんか意味あるの? 評価してもらいたいの? 普通に無関係の人にこそ見てもらって、楽しんでもらいたいと思わないのか。

「周平くんの近親相姦っぷりを見てるとさ、わたしは自分が書いた小説は、普段本を読まない人にこそ見てもらいたいって思うんだよね。とくにギタリスト。譜面は読めても小説は読まないっていう、周平くんみたいな人に。だからね、文学フリマの告知、ギタリストのコミュニティにちょこちょこ入り込んでアピールしてるの」

「問題はギタリストが文学フリマに来るかだな」

「そこなんだよねー、ライブは行くけど文学なんてねぇって考えるギタリスト多そうだし。だからアーティストもさ、ライブに行く習慣のあるアーティストを手っ取り早く自分のライブに誘うんだろうね。同じ立場だから、気持ちも分かるわけだし。わたしはそうは思わないんだよね、誰に1番見てもらいたいかが重要でさ。そこを明確にしてアピールしていきたいな」

 本も作っただけじゃ売れないから、どうしたらいいのか。
 推しのライブを見ながら考える。
 
 




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