好きなものを作って売るだけ【文学フリマ】
「なんだそのブックカバー」
「あぁ、文学フリマで買った。元アイドルさんの手作りみたい」
ピンク、リボン、ハート。年齢的に外で持ち歩いたらたちまち「痛い奴」認定されるであろう可愛すぎるブックカバー。
「元アイドルって誰?」
「名刺貰ったの。この子はシンガーソングライターさんで本売ってて、同じブースでお手伝いしてたホシナレイナさんって人が元アイドルで、今は衣装制作とかしてるみたい。いいねきたから寄った」
「いいねかよ」
文学フリマ行きます! というわたしのポストに、真っ先にいいねをしてきた子。さすが元アイドル。オタクがいいね1つで動くことを知っている。
「いいねきたからチラッと見に行ったら、どう見てもアイドルみたいな子が2人でいるの。アイドル物販かな? みたいな。そりゃ話しかけに行くでしょ」
オタクはちょろい。
東京ビッグサイト。なかなかの長蛇の列で、オープンしてから20分後にやっと中に入れた。
さっそくいいねをくれた人のブースへ行くと、フリフリの可愛い格好をした2人の若い女の子が。
「こんにちはー! 見てってくださいー!」
「あ、なんかいいねくれたので」
「え!? あー! この子が! もうめっちゃいいねしまくってて」
いいねをくれたと言うだけで会話ができるようになる。いいねをくれたのはシンガーソングライターのyumenouragawa(ゆめのうらがわ?)さん。
「ブックカバー、めちゃめちゃ可愛いですね! でも持ってたら痛いかな。外では使えないかも」
「いや! 全然使えます! 使ってください!」
わたしは前世は男だったと思う。可愛い女の子に弱い。
「じゃあこれ買います!」
「え!? いいんですか!! やったー! ありがとうございます!」
可愛い可愛い可愛い。好き。大好き。
「てな感じで、もうめっちゃ可愛くて買っちゃった」
「チョロいな。てかyumenouragawaって子、俺の知り合いめちゃめちゃフォローしてんぞ」
「え、まじで? わたしの知り合いはゼロだった」
「たぶん界隈一緒だわこれ」
「今はシンガーソングライターだけど、過去にこの子もアイドルだったパターンだね」
まさかまさかの繋がり。文学フリマからアイドルと繋がるとは思わなかった。
「ワンマン決まってんだな。下北沢モナレコードか」
「あそこ縦長だから見にくいよね。わたし2度と行くかって思った箱だわ」
「まぁどこかで見かけたらチェックしとくわ」
シンガーソングライターさんも文学フリマで出店してるとは。物販にも慣れているだろうし、幅広く活動すると、こうしてドルオタの主人と繋がるときもある。
1つのいいねの効果をなめちゃいけない。
「あとはこれ、コンビニ収集家のきむらかおりさんって人。珍しいコンビニを集めてるみたいで面白いから買っちゃった」
コンビニ収集記とコンビニカワイイという冊子を2冊購入。
「ちょっと話したんだけど、この人地方出身みたいで、都会のコンビニは珍しい形があって面白いんだって。面白いコンビニあったら教えてって。あんた知ってる?」
「んー」
「店内の撮影許可は出ないはずだから、外観で面白いかどうかだね。原宿のやつは間違いなく入るね。2つに分かれてて、片方がATMだけのとこ」
「あー、なるほど。外観なら都立大駅前とかだな」
「あー、たしかに。入り口2つあって、裏の入り口めっちゃ狭いもんね。初めて見た人はびっくりするね」
面白いコンビニ。
都内で生活していると、「へぇーこういう形もあるんだぁ」くらいなもので、そこまで意識して過ごすことはない。
「溝の口のとこは店内はまじでヤバいけど、外観はどうだったっけ?」
「外観は普通だな」
外観が面白いコンビニを集めているきむらかおりさん。もし見つけたらこの人に連絡しようと思うと、街中のコンビニを探すのが面白くなりそうだ。
「このちっこい本は何?」
星空のような表紙の10センチほどの絵本。
明らかに手作りである。
「これはまじで可愛くて衝動買い。早稲田大学の児童文学研究会の人たちが作ったものみたい。買うときがめっちゃ楽しかったの。20歳くらいの男の子が2人してガチガチに緊張しながら座っててさ」
「慶應はチャラいけど、早稲田の学生は真面目だもんな」
ブースの前を通ると思わず目を引いた、手作り感満載の小さな本。
パッと手に取り、パラパラとめくると、型紙を一つ一つ貼り合わせて作られた絵本だった。
「あの……いろんな柄もありますので……」
明らかに学生と思われる男の子が声をかけてくれた。チェック柄の表紙のものもあり、それも手にとってめくる。
その間、じっと息を潜めるようにわたしを見つめる2人の視線。逆にこっちが緊張する。
絵本の内容よりも手作り感が好きで気に入ったので、最初に手に取った星空の柄の本を再び手に取る。
「じゃあこれください」
と言うと、
「え、あ、え、はい。400円です」
売れることを想像していなかったような反応で、内心笑う。
「1000円でお願いします」
「はい、あ、600円のお返しです」
お釣りをわたしに渡すときも、「何か声をかけなきゃいけないんじゃないか」と思っているのがヒシヒシと伝わってくるような緊張っぷりで、
「大丈夫ですよー、何も言わなくて大丈夫ですよー」と心の中で思う。
「ありがとうございます」
「あ、はい! ありがとうございました!」
真面目な学生さんたちだった。
「売れると思ってなかったみたいな反応で面白かった。その経験だけでも400円の価値あるわ」
「商売慣れてないんだろうな」
「学生だと、普段は友達とか呼んで商売ごっこして終わりだもんね。本当に何も関わりがない一般客相手だと緊張するんだろうね」
「まぁ、行って楽しかったんならよかったな」
文学フリマ。
初めて行きましたけど、ここに出店している人たちは、本当に好きなものを作って売っているだけで、利益よりも買ってくれる人の笑顔のためにやっているんだろうなと思いました。
自分が作り出したものを、誰かが買うって、きっとすごく嬉しいのだろう。
「なんか良い刺激になったわ。わたしが出店したらあんた売り子ね」
「ただではやらんぞ。俺は本気で売っていけるから」
コミュニケーション能力が抜群に高い主人。わたしがこの先どんなに努力しても、この人みたいには絶対にならない。
「それで知り合いのアイドルさんを客引きに隣に置いておけば完璧やな。まじで普通に物販できそう」
「あんたもなんかやれよ」
色んな作品と出会えました。
正直、こんなものでも値段をつけて売れるんだと思うようなものもあって、それが逆に面白かった。
文学フリマ、おすすめです。
次回、東京でやるのは来年5月。場所は同じく東京ビッグサイト。
次回も行きます。
今日出会えた方、ありがとうございました。