頑張らないとこの人には相手にしてもらえない
「遅かったなぁ、モネ展?」
「そう。あと帰りに新宿で路上ライブ見てた」
モネ展の帰りにXを見たら、知ってるアーティストさんが路上ライブやるとのことで、新宿に行った。
「なかなか面白かったよ。【路上ライブ禁止】って書かれた横断幕の前でやってて」
「ダメなんじゃないのかそれ」
良くはないのかもしれないけれど、立ち止まる人は1人くらいで、看板も投げ銭BOXも置かずに、音楽を流して歌っているだけの2人。初めて見る人は誰が歌っているのかも分からない状態。
わたしは邪魔にならないように、駅寄りの離れた場所から見ていた。
「全然客集まってないし営業もしてないから、
あれを取り締まるくらいなら、その辺で騒いでる酔っぱらいを取り締まれよって感じだった。デジモンとか歌っててね、通りすがる人が「お! デジモン!」とか、楽しそうに聞いてたよ」
「人の曲でライブするのは許可がいるんじゃないのか?」
「いちいちうるさいな」
法律にうるさい主人は細かいことを気にする。
何回かライブハウスで見たことがあるアーティストさん。ここ最近は色んな理由でその界隈には行かなくなったので、ライブを見るのは久しぶりだった。
「会えてよかったなって思った。まぁ声はかけなかったんだけど」
「声かければいいだろ」
「わたしはね、コッソリ見るのが好きなの。路上ライブならコッソリ見れていいよね」
「収益にはならないけどな」
「収益求めてる人は路上なんてやらないよ。だから好きなの。会いたい人がこの人にもいるんだろうなって思えるから」
チケットを買ってくれる人、応援してくれる人を大切にする。
それも大事だけど、それよりも大事なのは、
頑張らないとこの人には相手にしてもらえないって人を作ること。
「会いたい人を作るってすごく大事だと思うの。認められたい人でもいい。わたしはそういう人がたくさんいるの。独身のときはあんただったし、今はゲッターズ飯田さんだし、BAND-MAIDだし、周平くんもそうかな。会うためにはどうしたらいいかって考えると、それが自分の力になるし、行動するきっかけになるんだ」
「チャラ男なんてライブ行けば会えるだろ」
「そうなんだけど、今はクソアーティストが周平くんに執着してて会えないから、別の方法を考えないといけないの」
客だったらお金を払う。足を使って会いに行く。お金を稼ぐために働かなきゃいけないし、会う時間も作らなきゃいけない。
BAND-MAIDも、飯田さんも。でもこの方たちはまずチケットが取りにくいので、運も大事。会いたいから、頑張れる。
アーティストだったらとにかくライブをする。
「会いたい人が来てくれるかもって思いながらライブするアーティストさんって、絶対ブレないと思うんだよね。だから路上ライブもバンバンやる。ライブハウスには来てくれなくても、路上なら見てくれるかもって思いながらライブしてると思うんだ。とくに初めて見る人を増やしたいって思っているアーティストさんはね。結芽乃ちゃんとかそうじゃん」
「結芽乃ちゃんはすごいな」
会いたいから。来てほしいから。
大分から上京してきて、毎日のようにあちこちで路上ライブをするアーティスト、結芽乃。
そして、それを毎日追っているファン。
お互いに、頑張らないと会えないんだ。
「だからわたしも最近はね、もしかしたら周平くんとかゲッターズ飯田さんが文学フリマに来るかもしれないなって思いながら執筆してるの。そうするとブレなくなるから。全力で頑張れるんだ」
「チャラ男はともかく、飯田さんは来るわけないだろ」
「来るか来ないかじゃなくて、そう思うことが大事なの。そう思うことで頑張れるから。路上ライブだってそうだよ、どこかで誰かが見ているかもって思うと頑張れるじゃん? 声をかけなくても、コッソリ見たい人だっているんだから」
頑張らないとこの人には相手にしてもらえない。
それが1番の活力になる。