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100円で本を売る
「面白いこと思いついちゃった」
「何?」
「文学フリマでさ、100円で本を売ったらどうなるかなって」
「は? 大赤字になるだろ」
150ページほどになる予定の、わたしが初めて作る本。実話を基にしたフィクション小説。それを、100円で売る。
「部数にもよるけど、1番安く作っても1冊200円台だね。100円で売ったら大赤字。だけど、面白くない? みんな安くても300円とかで売ってる中、わたしだけ100円」
「やめとけ。俺は反対」
「なんで?」
「せっかく作るのにあんたの価値が下がるみたいで嫌なんだよ」
なかなか嬉しいことを言ってくれる主人だ。
「ゲッターズ飯田さんの金のインディアンの本に書いてあるの。2025年は【目先の利益を考えない】って」
「だからって100円はない。あんたのフォロワーさんたちだって来るんだろ」
「何人かは来るって言ってるけど、でも無名だよわたし。文学フリマ常連さんたちの中じゃ超無名。こんなに長い小説書くのも初めてだし、本作るのも初めて。偉そうに700円とかつける方が恥ずかしいよ」
もし700円で販売してあまり売れなかったら、
「まぁ初めてだし、こんなもんでしょ」と、言い訳して納得してしまう。
でも100円だったら……。
「本ってさ、全部読まないと中身がわからないんだ。ライブと一緒。どっかの界隈はさ、チケットだけ売って、客は来なくても別に良いって考えるクソアーティストが多いんだけど、わたしはそうは思わないんだよね。とにかく見てほしいって思うんだ」
ど素人が書いた小説を700円で買うか?
わたしは、知り合いだったら買う。他人なら買わない。
じゃあ知り合いを増やせばいい。
え? それは、どっかの身内ライブしてる奴らと同じじゃない?
「買ってくれる人が全員フォロワーさんだったら意味なくない? だって全部知ってるから、今までのこと。長い人はわたしがギターのレッスンに通い始めた頃から知ってるよ。クソみたいな先生に習ってるなぁってみんな知ってる」
ギターを5年習った実話を基にした小説。
前使っていたXのアカウントには、先生がバックれて来なかった日に、
「今日は先生来ませんでした」と、一人で使うスタジオの写真と共にポストして、その度にフォロワーさんから
「なんでそんな先生に習っているの??」と突っ込まれていた。
「そもそもさ、文学フリマ自体がもう集客してんのよ。15000人も。当然その人たちも目当ての人がいるんだろうけど、目当てだけ買うって人は少ないと思うんだよね。目当てと、フラッと見て気になった本を買うと思うんだよね」
前回の文学フリマ東京39に行った私は、目当てなんていなかった。フラッと見て、気になった本を買った。
「そのときにさ、1000円の本は絶対買わないなって思った。とくにノンフィクションエッセイ系はさ、自己満足の部分が強いから、作家の人柄を知らんのに読む気になれないし」
「だからって100円はない。せめて300円とか原価分だけでも。逆に安すぎると売れないかもしれんぞ」
「うーん……そうかなぁ……」
100円だったら手に取ると思う。なーんにも事前情報がなくても、
「絶対赤字じゃん。何してんのこの人」
って笑いながら手に取ると思う。
面白いことがしたいな。
そして、たくさんの人に読んでもらいたい。
いくらで売るか。今はそれについて考えている。