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リゾバ人間観察記①

2024年5月〜10月まで、山奥で住み込みアルバイトをした時の人間観察日記。

この人、なんか惹かれる…

私が赴任した際、一緒に働くメンバーとは従業員食堂(以降「従食」と呼ぶ)で初対面となった。自分の苗字が珍しいこともあり、到着してすぐに、みなさんから、「なんて読むの!?」と眩しいくらいのキラキラした目で囲まれたのを今でも思い出す。しかし、その中に、彼女はおらず(オフ休み)、次の日の仕事場で顔を合わせた。

その時に一瞬で、「この人と仲良くなるだろうな」という電撃みたいなものが身体中に走った。なぜなのかは自分でもわからないんだけど。

彼女は一つ上のお姉さんだった。
長く勤めた会社を退社して、学生の時にした富士山の山小屋での住み込みアルバイトの思い出が忘れられず、こちらに来たのだとか。

前職では企画をしていたらしく、私たちがよくお世話になる100均で、巷の流行を察知して、製品を仕入れしたり、新たな商品を開発したりしていたんだとか…

大学生の時はゴリゴリの理系だったらしい。しかし、インターンをしていた業界が、プレスリリース。色んな記事を書くために、取材をしたりしていたんだとか…
だからメモを取ったり、まとめたりするのはとても得意なようで、彼女がパラパラと見せてくれた業務メモ帳は、とても可愛らしくて、見やすいものだった。

彼女とは気が合った。
長年お付き合いしているパートナーがいることや、自分の心踊ることをする為に、勤めた会社を辞めて、短期間自由に生きていること、それでもやっぱり組織に属した働き方の方が、性に合っていると悟っていること。生まれも育ちも、歩んできた過程も全て違うのに、なんとなく歩んでいる道が似ているなぁと感じた。

そんな彼女の雰囲気が大好きで、彼女にまた会いたいと思い立ち、私たちは二度の再会を果たした。そのお話はまた今度。

安定感ありすぎるんだよなぁ。

彼女は五つ下の女の子。
しかし私は彼女の年齢を聞いて、良い意味でドン引いた。年齢の割にしっかりしすぎているというか、言葉に表せない安定感があった。それを感じていたのは、私だけではなかったようで、おそらく、ここで働いていた人全員が認知していたと思う。

本人はケロッとしているけど、彼女が働いている日と、彼女がお休みの日では、安定感が底違いだ。あの年齢で、周りを巻き込んで安定させることができる、驚異的な信頼感。どんな育て方をしたら、こんな素敵な子に育つんだろう。私は彼女のことが知りたくて仕方なかった。

彼女は三人姉妹。何番目だったか忘れたが、長女ではなかったことに更に驚いた記憶があるから、きっと次女か三女だったはず。いや、弟が居たとか言ってたっけ?いや、もうわからない。

彼女はリゾバを何度かやっている経験者だった。リゾバの前は、工場で働いていたらしい。高校を卒業後就職し、社会人歴は6.7年と言ったところか。ここで、彼女の謎の安定感がこの社会人歴にあるのだろうと、紐解けた。いや、この子凄いわ。

別に人生を悲観する訳でもなく、でもどこか悟りを開いたような、安定感。彼女にはそれがあった。

母親とはあまり上手くいっていないらしい。リゾバをするのも、実家から遠のきたいからだそうだ。彼女は「母親とは相性が悪くて。」というけれども、私は彼女の母親がとても素晴らしい人に思えた。だってこんな素敵な子に育つんだぞ。反面教師だったとしても、やっぱり彼女の素晴らしさは母親から来ているのは間違いない。そして、彼女と話していくうちに、彼女の母親が書籍を出版したことがあるということを知った。なんとなく、その書籍が気になり、リンクを送ってもらった。

その送ってもらったリンクは、彼女の母親のブログと書籍情報が書かれていた。驚いたのは、彼女からは想像できないぐらい、彼女の母親は正反対の人であるということ。それが、このリンクの節々から伝わってきた。だから、なんとなく、彼女が母親を毛嫌いする理由がわかったような気がした。それでもその母親が一生懸命生きてきた証が、そのブログと書籍に詰まっているようで、やっぱり素敵な人だなと思った。

真反対な二人。でもやっぱり二人とも素敵な人であることには変わりない。オモロいな、人生って。

え?成田から直接来たの?

今回の職場で唯一の外国籍の女の子。
東南アジア国出身の彼女は、きっとその国では中上流階級層なんだと思う。彼女の性格的にも、日本で就業するにあたって用意してきたビザのランク的にも、きっとそうなのだろうなと思っていた。

彼女はとてつもなくピュアだ。本当に、信じられないほどに。真っ直ぐで、心が澄んでいた。だから同僚たちからもとても愛されていたし、彼女が困っていれば、みんなで手を差し伸べた。

彼女は日本という国に初めて来たという。普通日本に来るとなれば、せっかくだし働く前に数日間東京でも観光して、仕事に向かうか。となる様な気がする。が、彼女は赴任日に合わせて来日し、成田から直接公共交通機関を乗り継いでやってきたらしい。結局帰りも、どこも寄らずにそのまま成田へ向かって、観光せずにベトナムへ帰っていったらしい。

日本語もわからない。土地勘も掴めない。
これから働く場所がどんなところかもわからない。そんな状態で大荷物を持って、やってきた。

彼女は週一回のお休みを、下界へ降りて、役所での手続きや、携帯のデータ通信の契約などに費やし、それが落ち着いた後も日本語の勉強をすると一日中部屋に篭っていたりした。とても真面目な子だった。

彼女は静かに涙を流す子だ。
滞在中色々なことが彼女にふりかかった。最初は、慣れない環境に。定期的に訪れる別れに。どうしようもない制度に。その度に彼女は静かに額を濡らした。

しかし、最後彼女は、温かい涙を流した。
みんなから愛されていた彼女に、初期メンバーから最後までのメンバーからの、メッセージアルバムが贈られた。それを一枚一枚めくりながら、まるで天気雨のような表情をしていた。

この子シゴデキだけど若そうだな…

彼女は19歳の学生。
この職場で出逢った最年少だった。

どこの大学かは忘れたが、建築学科ということは覚えている。そして若いのにしっかりしていて、仕事もテキパキとこなす。きっと相当地頭の良い子なのだろう。

しかし、実はいちばん苦手な子でもあった。19歳という若さ故か、かなり尖っていた。そしてその鋭利な刃先が、たまに自分に向けられているなと感じることがあった。それはほんの些細なことで、特段大きい事態にはならない。だけど、そのチクっと刺された場所が、異様に腫れては痛みが残るのだ。それがちょっと辛かった。

だが、ある日。彼女と一緒に食事をしていた時に、結果的に自分の弱い部分を彼女に見せることになってしまったことがある。本当はそんなつもりは全くなかったのだが、致し方ない。

彼女にまた更にチクっと刺されるのだろうと腹を括ると、驚くことに彼女は傷を癒してくれた。

「今の〇〇さん(私)の気持ち、分かります。私も同じタチだから、なんかわかるんです。」

彼女は何度もそう呟いて、私の気持ちに寄り添ってくれたのだ。

それを機に、私の彼女を見る目が変わった。あんなに彼女の言葉が怖かったのに、いつの間にか、その怖さが溶けて、彼女との会話が弾んだ。

彼女が任期を満了して去る日に、お見送りに出たのは、私となんか惹かれる人だった。相手への印象、感情って、ほんのちょっとの出来事でガラッと変わる。やっぱり何が起こるかわからない。それが人間関係ってやつなんだろうか。

何考えているんだろう?仲良くなれるかな?

彼女の年齢は最後の最後までわからなかった。きっと私よりもお姉さん。それだけ。

彼女はサバサバし過ぎていて、掴みどころがなくて、どういうスタンスで関わっていけばいいのかわからなかった。第一印象は、仲良くなれるだろうか?だった。

それがびっくり。彼女とは仲間になった。
山登りという共通点を見つけ、なんとなく生き方そのものも似てた。

彼女はきっと私よりもお姉さんだから、数年後の自分を見ているような気分になった。そう、「◯年後の未来から来た自分」みたいな人だった。

彼女はワーホリをして海外に住んだ経験や、外資系、日系のクルーズ船でスタッフとして働いた経験、山登りが大好きであるということなど、たくさんの話に花が咲いた。

最初はどう接したらいいのかわからなかった彼女を、いつの間にか慕っていた。

彼女とは一緒に山に登った。
まだ残雪もあり、少し雪渓歩きもできる場所だった。私は雪渓歩きが下手くそだ。自信のない私にトレッキングポールを貸してくれたのだが、それが私を救った。雪渓のトラバースで滑落した私がとまることができたのは、彼女のトレッキングポールを思いっきり差し込み、踏ん張ったからだった。

彼女が任期満了で退所した後も、連絡を取り合う仲まで深くなるなんて、思いもよらなかった。やはり、出逢いとはおもしろいものだ。


写真はお休みの日に登りに行った双六岳へ向かう道中の景色
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