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【詩#22】《道はここから》

五つの自伝詩

I.朝七時

どこかの家の
目覚まし時計が鳴っている
電線を歩く鳥の
羽ばたきがそこらで聞こえる

そんな朝七時の街そのものが
僕を起こしてくれて
今日という日が
今日もはじまる

橋の下で靴を磨く
知らない男は僕にもやさしい
まだ開かない校門を
楽しみにしているのは僕だけでない

そんな朝七時に弾ける歌が
僕を起こしてくれて
今日という日が
今日もはじまる

II.春の雨

あたたかく くらくある
春の雨に 溶けてゆくこころ

つめたくくらくある
春の雨に 降ってゆくこころ

水たまりを跳ね上げるバス
今日の僕にとっての霊柩車

あたたかく とおくある
春の雨に つつまれてゆくこころ

つめたく とおくある
春の雨に にじんでゆくこころ

雨が止んだらやがて虹となる
こころはその虹の果てへ旅立つ

その虹の果てに行くことはできない
ただ地上から涙を注ぐのみ
ただ地上から笑顔で仰ぐのみ

おかえり いつでもこの家に
帰ってきてください

春の雨のたび 今日のことを思い出す
春の雨のたび 私もいつか虹の果てへと

こころはからだをはなれて
翳りの空から眩しさだけが降る


III.応援歌

まっすぐに ただひたすらまっすぐに
どうなるかなんてわからないけど
僕にできるのは
それだけのこと

ひたすらに ただまっすぐひたすらに
僕でない誰かを応援すること
それだけのことなら
僕にだってできる

どうなるかなんて誰にもわからないこと
それを太陽に届けて応援すること
ただひとつ僕にできること
ただひとつ僕が僕にもできること

IV.日々  
—2020年を生きるものたちによせて—

ありふれた日々のもうない
この日々はやがて日常となることを
突きつけられるほかないのである


朝の囀りはなにもかわらず
寒い風をけなげに梅は今年も咲っている
ただ私たちの何もかもがかわったのである
カーテンから漏れる光をただ見つめるだけ

ひかりを浴びてを歩くことが許されず
すれ違う人の顔を見ることが許されず
許されぬことこそ許されるただひとつである

暮れて街の鐘の声 近づいてやがては遠ざかる
眩しさを受けあらゆる影の今日も凛として
ただ私たちの何もかもがかわったのである
心の奥の瑞々しい青葉 それを咲かせるための


せめて新しい日々を咲かせるために
せめて心に見たことのない青葉の影を
そして光を 春を

V.道はここから

あまりにも眩しすぎる
いつもずっと前にいる人の道は

    春が来て 別れと出会いの連続に
    いくつもの涙を注ぐのか

    夏が来て 現実と理想の狭間に
    どれだけ自分を見つめるか

    秋が来て 枯れると実るの共存に
    うろたえながら歩くのか

    冬が来て めぐりあわせの愛情に
    気づくことは本当に幸せか

目の前の道は今この瞬間のここから始まる
今見えている道が全てではないはず
だから
思わぬ寄り道に光を見つけて
思わぬ方に進むくらいで良いのかもしれない

その寄り道が
誰かにとってはあまりにも眩しすぎる
そんなものなんだろう

#私の作品紹介

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