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映画「ディア・ハンター」

 映画「ディアハンター」(1978)を約久しぶりに観る。

最近の友人の何気ない一言。
「ディアハンター」で、あいつ最期どうやって死んだんだっけ?自殺?という質問の意味。
その質問、実は私が高校時代に観た時もわからなかったのだ。だから、友人と最近話した会話の中でも曖昧となってしまった。
だから、もう一度観る。

 その質問に出てくる、「あいつ」とはクリストファー・ウォーケン演じるニックという青年。デ・ニーロ演じるマイケルとは反対の性格で理知的。メリル・ストリープ(リンダ)と結婚し、出征した。
 ベトナムでの過酷な生活を過ごし、自陣に命からがら戻ったが、精神的に病み、実は正常な精神でいることはできていなかったのだ。
だから、マイケルは、退役軍人として故郷に帰ったが、ニックはベトナムに残り、捕虜中に精神負荷をかけられたはずのロシアンルーレットの賭け事に身を投じてしまった。もうすでにその時点で彼は死んでいたと言ってもいいだろう。自殺でも他殺でもない。
 しかし、このシーンの見どころは、ニックは賭けで勝った金を故郷の女リンダに送っていたと言う唯一残された愛と言う感情があったと言う事。そして、マイケルがニックを連れ返そうと再びベトナムに戻ること…これは、愛より友情が勝ったという事。つまり、マイケルはニックの妻であるリンダに好意を寄せ、実際に帰還してから関係をもってしまうわけだが、それよりもニックの帰還を願い、ベトナムに戻る。友情と愛が絡まる。
だから、このシーンを活かすため、作品の冒頭部分の長い1時間に彼らの人間群像を描いていたのだ。ともすれば、この全般部分はだらけてしまい、中々物語が前に進まない部分。しかし、この作品の中で非常に重要な部分であり、理知的なニック、猪突猛進型のマイケルの性格や行動をパーティーや鹿狩りを通じて描き、何の変哲もないピッツバーグの鉄鋼工場に勤める平凡な若者たちの生活を表現していたのだ。しかも過酷な労働の中にもそれぞれの青春があった。しかし、戦争はすべてを変えてしまう。
命を落とさなかったとしても、精神が死んでしまう者もいるということ。
 マイケルはベトナムから帰って来て、鹿狩りに再び行ったが、引き鉄を引けなくなっていた。
 そして、ニックは・・・。
せっかく捕虜の身分から助かった命をギャンブルという資本主義の社会悪で失うのだ。前記の鉄鋼工場。この時代のピッツバーグには多くのロシア系移民が労働従事していた。ニックもサイゴンの病院でロシア名を確認されるシーンがある。そのニックがロシアンルーレットで命を落とす…。無情である。
 私はこの作品は、1970年代を代表する青春映画として推したい。戦争映画というにはあまりにも内省的で「ジョニーは戦場に行った」に近い。
 最後に音楽。
テーマ音楽はスタンリー・マイヤーズ作曲の「カヴァティーナ」で、ギターはジョン・ウィリアムズによるもの。
 映画の過酷さとは反対で、静寂な中にも癒される楽曲である。当時のアメリカ映画の音楽はこのような傾向が強く、「タクシードライバー」「明日に向かって撃て」「俺たちに明日は無い」「ラストワルツ」など、作品内容とは逆の雰囲気を醸し出す音楽テーマソングがあり、それがより一層感情の振れ幅を増幅してくれる。
 副テーマソングとして、フランキー・ヴァリが歌う「君の瞳に恋してる」。
私は1982年にボーイズ・タウン・ギャングがカバーヒットさせた時、非常に違和感を覚え、素直にラブソングとして受け止められなかった記憶がある。
 そんな厚顔無恥に歌われてもなぁ、なんて思ったもので、歌に罪は無いが、これも全てベトナム戦争が悪いということにしておこう。


2014年10月13日
花形☀️

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