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義己 伊月
2023年12月27日 13:51
とある雪の日。 私は商店街へ買い出しに来ている。 今日はこれから忙しくなるお正月へ向けて、買い溜めをしに来たのだ。 十二月……もとい師走は、私にとっては繁忙期だ。祓い屋である私のおもな仕事は、神々から放り投げられる依頼をただひたすらにこなしていく魔の作業をする月だ。 だが、基本は自分の社に籠ってくれる神が大多数だ。そのおかげで、細かい雑用仕事が回ってくることはあまりない。 代わりに、身
2023年10月27日 20:01
私は時雨。一人寂しく暮らす鬼だ。 鬼と言っても、姿が変わっているとかではまったくない。化けている姿とそうではない姿は、あまり見分けがつかないとよく言われる。 さて。今夜は十三夜の栗名月である。だが、私の場合はただの月見はできない。「やはり、ここで飲む酒は格別だな」「……毎年思うんですが、なんでここなんです?」 隣で猪口の酒を一息に飲み干すお方は、私の主であり、守護神でもある月読命だ。私
2023年9月20日 22:43
※ 前作の続きです。後編のみでは、あまり楽しめないと思われます。 庭を歩いてきたのは、茜の祖母であり、私が関わる人間の一人・亜香里だった。私と違い、顔の皺が少しばかり目立ち、髪にも白髪が見えているが、まだまだ現役の祓い人として活躍している。 かなり険しい顔をしているが、私の姿を見ると、途端に笑顔になる。『よっ、元気してた?』『アンタよりかは、ね。そっちこそ、身体は?』『最近の健康診断
2023年7月23日 13:04
桜はとうに散り、紫陽花すらも終わりを迎えた。春はあっという間に過ぎ去り、梅雨明けも分からぬほど暑い夏。「うぅ……なんでこんなに終わらないんだぁ〜!」「大学のレポートなんて、そんなに簡単なはずないですよ……私も課題が終わらない……」 春から時は流れ、私は新学期を迎えた。私こと渚と茜さんは、それぞれの学校生活を楽しんでいる。 そんなある日。 私と茜さんは、時雨さんの屋敷にお邪魔していた。
2023年5月27日 15:32
春の晴れた暖かな日。 私は長い階段を上がり、ある神社に来た。近くの公園では花見客が集まっているものの、この神社では皆無に等しい。これほど美しい一本桜が咲いているというのに。 人のいない静寂に包まれた境内で、私は参拝を済ませる。そして早速、鳥居のすぐそばに伸びる桜の元へと向かった。「綺麗……」 春の風が吹き、桜の花弁が散るその様は晴天の空によく映えた。 しばらく桜の木を眺めて、私はその場