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走れメロスの教材解釈つらつらと
太宰の肖像写真をみながら走れメロスのことを考へてゐる。…ディオニスはメロスに自分自身をみてゐる。川を渡りきつたメロスに襲ひかかる暴漢たちは王の内心の象徴であるやうに思へる。ディオニスは実は「愛と信実」をかつてのやうに信じたいと心底でねがつてゐる。でも「わたしは深く傷ついた…人を信じて裏切られるのはもう嫌だ、人を信じるなんて愚かなことだと示してやるのだ」とも思つてゐる。
物語の終末、ディオニスへの「万歳、王様万歳」は人々の切なる祈りとして耳に響く。物語は終はるが現実は続く。どうか王様が、ふたたび暴君に戻ることがありませんやうに…。しかしむごいことに、ディオニスが人間不信の時期に殺した人々は戻ることはない。かれは爾後自らのなかにある「愛と信実」の呵責から逃れることはできないであらう。…こんなふうに読めば、これもやはり太宰らしい作品だなと思へる。
キタダヒロヒコ(2023.11.3)
撮影:林忠彦 銀座ルパンにて