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【超短編小説】キシリトールで囲碁を打つ

「ガムだから、いつでも食べられるよ」

僕は白いキシリトールガムを指に持つ。

父さんはブラックガムで対抗する。

盤面に並ぶ四角い白と黒。

まるでルビンの盃のように何かを描こうとしているみたいだった。

父さんは「目を覚まさないと。集中、集中」と言って、ブラックガムを一粒食べた。

母さんは「早く終わらせてね。ご飯食べるの遅くなるんだから」と言った。

その時、猫は僕の隣で大きなあくびをした。

ガムは僕の指の熱で少しグニャとなった。

指紋だけが残る。

次は、父さんの番だ。

「キシリトールは歯に良いんだぞ」と父さんは言いながら、僕が打った斜め前に置く。

「そう来たか」

僕は明日から歯医者に行かないと思う。

猫はまた大きなあくびをした。(おしまい)