見出し画像

翻訳・通訳スキルを在日ベトナム人のサポートに活かす(ベトナム語 翻訳・通訳者 ハー・ティ・タン・ガさん:その6)

通訳や相談対応から翻訳の仕事も

通訳や相談対応をしているうちに、翻訳の依頼もちょこちょこ来るようになりました。
たぶん、KFCのニューズレターの日本版ができたらそのベトナム版をつくるという翻訳が始まりだったと思います。

そこから、だんだん翻訳ができるようになった。

例えば出生届などの証明書や、入国管理局に提出する陳述書。
ベトナム人の女性が、日本人の夫に細かいことを訴えたいけれど伝わらなくて辛いから、ベトナム語の手紙を書くので日本語に訳してほしいとか。

でも今も、医療やビジネスの翻訳はできないかな。まだ弱い。
やはり経験がないと、上手にならないですね。

日本語の読み書きの勉強のしかた

最初に翻訳してほしいと言われたとき、日本語の読み書きはだいたいできました。
私の漢字の勉強のしかたは、例えば「連絡」という単語を見たら、「連」と同じ、しんにょうが使われている字をまとめて載せている漢字辞典を見ます。
次は手偏、土偏、くさかんむりと見ていって、だんだん知っている字が増えていくと、言葉を調べるのも速くなってくる。

ちょっとずつ言葉を覚えていくうちに、ベトナム語ではこうだと言っても、日本語ではそういうニュアンスではないといったことが何となくわかるんです。
どう違うのかうまく説明できないけれど、使い方や雰囲気が違う。
だから通訳もそうだけれど、翻訳はすごく難しい気がします。

介護の仕事に携わるものとして
ベトナム人高齢者の通院に付き添う毎日

F:FACILの医療通訳システム構築事業を始めた当初から医療通訳者として活躍いただきました。

今はFACILからの依頼ではないですが、医療通訳はほぼ毎日しています。

私の今の仕事は介護ヘルパーの派遣と管理ですが、利用者としてデイサービスに来たり、ショートステイなどで寝起きしたりするベトナム人高齢者12、13人ほどがいろいろな病院へ通院するときには、ほとんど私が付き添います。

よく神大(神戸大学医学部附属病院)、神鋼(神鋼記念病院)、中央市民(神戸市立医療センター中央市民病院)、鐘紡(旧鐘紡記念病院、2007年に神戸百年記念病院となる)など、大きい病院にも連れて行きます。

F:通訳で特に印象に残っていること、よかったことなどはありますか。

安心と言われることかな。

ベトナム人のおじいちゃん、おばあちゃんは、家族が病院に連れて行ってくれてもあまり役に立たないと、よく言います。

(家族に連れて行ってもらうと)病気の症状とか、はっきりした病名とか、いろいろな細かいことがあまりわからないそうです。

医療通訳では、細かい部分もすべて伝えることが患者の安心につながる

例えば先生が「この間の検査は、こうだったから、こうで、これでもう大丈夫です」と言うと、家族の人は「先生は大丈夫と言ってるよ」と。

でも、省略された細かいところを知りたいですよね。
おじいちゃん、おばあちゃんにしてみると「私の病気や病名を、隠してるのかも?」「本当は、大丈夫ではないのでは?」と思う。

私の場合はできるだけ、ほぼすべて話の流れをそのまま訳して伝える。

だから「あなたと行くと、とても安心」と言ってもらいます。
通訳だから、何も隠さないしね。
家族が何かを隠してほしいと希望していても、そこはマイナスかもしれないけれど、ありのまま伝えるべきというのが私の考えです。

通訳者の中には「今度の患者さんはどんな病気(症状)なのか。細かく教えてほしい」という人もいます。準備しないといけないから。

私は、それほど準備する必要はないと考えています。
基本的には医師が言われたことを、そのままストンと伝えればいい。

「糖尿病」と言われて「Bệnh tiểu đường」とわかればそう伝えればいいし、もし言われた言葉がわからなくても「先生、それはどういう病気ですか?」と尋ねて伝える。

病気に関して、先生が言わない細かいことは、あるかもしれない。

そこで通訳というより、私個人の経験上の知識から伝えられることはあって、例えば肺がんで「これからどんな治療になるのか」と診察後に患者さんから聞かれたら「こういういくつかの可能性や選択肢があるけれど、あなたの場合はどれに当てはまるのかまだわからない」といった話はできる。

でも診察の場での先生の話は、(先生の話した)ありのまま情報を渡すだけです。私のやり方は、ほかの人と違っていて親切ではないかもしれないし、どちらが正しいかはわからない。

医師へ通訳者として質問できるのも経験を積んだからこそ

医療通訳では患者さんが興奮して、自分自身では後先がわかっていないことが多いです。

そこで、これは先生に聞いておくほうがよいと経験上わかっていることがあれば、私が代わりに先生に尋ねて、それも補充して伝えます。

「採血してください」と言われて訳すだけで終わると、患者さんはこれからどうしたらいいかわからない。だから、私が「病院には来月もう一度、結果を聞きに来るのですか?」といった確認をする必要がある。

単に訳すだけでないというのは、私の中に通訳者と生活相談員の二役があって動いているのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?