見出し画像

どんなストレングストレーニングがランニングエコノミーを高めるのか?

少し前に「どんなストレングストレーニングがランニングパフォーマンスを高めるのか?」というnoteを書きました。

そのnoteでは、今年発表された「ストレングストレーニングの方法が中距離・長距離ランナーの運動パフォーマンスに及ぼす影響」に関する系統的レビュー・メタ分析の結果をもとに「どうせ取り入れるのであれば、低負荷(低強度高回数)よりも高負荷(高強度低回数)のトレーニングを行った方が効果的」と記しています。

実のところ、その論文を発表した研究グループは、「ストレングストレーニングプログラムが中・長距離ランナーの異なる走速度におけるランニングエコノミーに及ぼす影響」という似た系統的レビュー・メタ分析も発表しています。
要するに、前者は「パフォーマンス」を後者は「ランニングエコノミー」をターゲットにしています。
ということで、今回はランニングエコノミーへの影響を調べたこちらの論文を見ていきます。

今回の系統的レビュー・メタ分析では、Web of ScienceやPubMedなどの電子データベースを用いて、2022年11月までに発表された文献を対象に、一定の選択基準に基づいて一次研究を抽出しています。
具体的な選択基準は以下の通りです。

  1.  中・長距離ランナー(16歳以上、競技レベルは不問)を対象としている

  2.  3週間以上のストレングストレーニングが行われている群が存在している
    高負荷:80%1RM以上の方法
    最大下負荷:40-79%1RMの方法
    プライオメトリクス:40%1RM未満でストレッチ&ショートニングサイクル機能の改善を目的とした方法
    アイソメトリック:筋の長さがあまり変わらない方法
    複合:2つ以上の方法を組み合わせた方法

  3.  対照群(ストレングストレーニングを実施していない、または低負荷(40% 1RM未満)しか実施していない)が存在している

  4.  トレーニング介入期間の前後で複数の走速度におけるランニングエコノミーが評価されている

  5.  ランダム化、もしくは非ランダム化の対照試験である

最終的に、31件の研究が選ばれ、合計652人(中程度のトレーニング: 195人、十分に訓練された: 272人、高度に訓練された: 185人)のランナーが分析対象となりました。
各ストレングストレーニングの期間は6-24週間、頻度は1-4回/週の範囲でした。
主な結果をまとめると次の通りになります。

・高負荷
8.64~17.85km/hの走速度で改善(効果量:小)
走速度やVO2maxが高い場合に改善度合いが大きい

走速度が高負荷トレーニングにおけるランニングエコノミーの効果量に及ぼす影響
Llanos-Lagos et al. (2024) のFigure 7
VO2maxが高負荷トレーニングにおけるランニングエコノミーの効果量に及ぼす影響
Llanos-Lagos et al. (2024) のFigure 8

・プライオメトリック
12.00km/h以下の走速度で改善(効果量:小)
12.00km/hを超えると、改善が認められない


走速度がプライオメトリックトレーニングにおけるランニングエコノミーの効果量に及ぼす影響
Llanos-Lagos et al. (2024) のFigure 9

・複合
10.00~14.45km/hの速度で改善(効果量:中)
エビデンスの確実性が低い(GRADEアプローチによる評価:追加の研究で結果が変わる可能性が高い)

・最大下
改善なし

・アイソメトリック
改善なし

まとめると、この系統的レビューとメタ分析は、ストレングストレーニングの中でも、スピードランナー(フルマラソンでサブ3.5より速い層)には高負荷(高強度低回数)トレーニングが、そうではないランナーにはプライオメトリックを取り入れることで、ランニングエコノミーが改善する可能性が高いことを示しています。

プライオメトリックトレーニングは、基礎的な筋力や動作制御が必要なため、上級者向けと考えている人もいます。
それを踏まえると、12.00km/h以下(フルマラソンで3時間30分より遅い層)でのみプライオメトリックの効果が認められた一方で、高負荷トレーニングは17.85km/hまで(フルマラソンで2時間22分相当)効果が認められたという結果は、意外に思う人もいるかもしれません。

なぜこのような結果になったかはさておき、女子トップランナーのレベルまでは、高負荷のストレングストレーニングを実施することでランニングエコノミーの向上が期待できると言えるでしょう。
また、ランニングエコノミーはランニングパフォーマンスを決定する主要な生理学的指標の1つです。
前回紹介した系統的レビュー・メタ分析の結果と合わせて考えても、エリートランナーを対象とした場合、高負荷のストレングストレーニングが競技力の向上のために妥当な手段と言えるでしょう。

このnoteは「Llanos-Lagos, C., Ramirez-Campillo, R., Moran, J., & Sáez de Villarreal, E. (2024). Effect of Strength Training Programs in Middle- and Long-Distance Runners' Economy at Different Running Speeds: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports medicine (Auckland, N.Z.), 54(4), 895–932. https://doi.org/10.1007/s40279-023-01978-y」をもとに作成したもので、CC BY 4.0で使用されています。

※CC BY4.0
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/


いいなと思ったら応援しよう!

髙山 史徳/Fuminori Takayama
執筆家としての活動費に使わせていただきます。