厚底カーボンシューズの恩恵は女性ランナーでも受けられる
厚底カーボンシューズ(Advanced Footwear Technologyシューズ)が世に出始めた当初、体重が軽く筋力が低い女性ランナーには履きこなせないという見解がありました。
ただ、現在では男女を問わず、多くのトップアスリートが厚底カーボンシューズを履いてマラソン大会に出場しています。
最近、『Medicine & Science in Sports & Exercise』に掲載された論文では、18名の女性ランナー(5kmを22分未満で走れる走力)を対象に、Vaporfly Next% 2(厚底カーボンシューズ)とNike Pegasus 38を装着した際のランニングエコノミーを時速12.9km(4分39秒/km)で検証しました。
Martinez, E., 3rd, Hoogkamer, W., Powell, D. W., & Paquette, M. R. (2024). The Influence of "Super-Shoes" and Foot Strike Pattern on Metabolic Cost and Joint Mechanics in Competitive Female Runners. Medicine and science in sports and exercise, 56(7), 1337–1344. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000003411
その結果、厚底カーボンシューズを履くことで、ランニングエコノミーは4.2%(酸素摂取量で見た場合)もしくは3.9%(エネルギー消費量で見た場合)向上することが明らかになりました。
また、この研究ではバイオメカニクス的な観点からもランニングエコノミーの変化との関係が調べられており、厚底カーボンシューズを履いた際の接地パターン(フットストライクパターン)とランニングエコノミーの変化率との間には、有意な相関関係がないことも示されています。
この結果は、女性ランナーであっても厚底カーボンシューズを履くことでランニングエコノミーが向上し、その向上は接地パターンが要因ではない可能性が高いことを示しています。
なお、ランニングエコノミーはランニングパフォーマンス(競技成績)を決める要因の1つですが、ランニングエコノミーが高まっても必ずしもパフォーマンスが向上するわけではありません。
この点を前置きした上で、『Frontiers in Sports and Active Living』に掲載された別の論文では、厚底カーボンシューズの登場以降、ロードレースの世界記録の更新度合いは、男性よりも女性において著しいことが報告されています。
ただし、これもシューズ以外の要因が影響している可能性があり、男性ランナーと女性ランナーのランニングエコノミーの向上度合いを直接比較した研究は数少ないため、現時点では女性ランナーの方が厚底カーボンシューズの恩恵を受けられると解釈するのは妥当ではありません。
この論文でも詳しく考察されていますが、時代の経過に伴うタイム短縮の原因を断定するのは非常に難しいです。
個人的には、その他の研究を考慮すると、体重が軽いからといって厚底カーボンシューズの恩恵を受けられないわけではないと考えています。
一方で、筋力が低いと恩恵を受けられないという主張については、ここでの筋力が抽象的で定量化されていないため、明確な見解を出すのは現時点では難しいと考えます。
こちらの記事では、これまでに発表された研究をもとに、利益相反という観点から、厚底カーボンシューズによるランニングエコノミーの向上を考察しています(ここで触れた論文を加筆して合計22本の論文を考察)。
マニアな方、科学の奥深さに触れたい方にはおススメできるかもしれません。
最後に、厚底カーボンシューズによるランニングエコノミーの向上に関する研究成果は、相変わらず積み重なっています。
それについていくのは容易ではないですが、ここまで来たらずっと追い続けていたいというのが科学者の宿命。
更なる進展を追い続けていきたいと思います。