男性エリートランナーのパフォーマンスを高めるストレングストレーニング
持久系スポーツのアスリートや愛好家がストレングストレーニングを行うメリットとして、第一に挙げられるのがパフォーマンス向上につながる点です。
一口にストレングストレーニングと言ってもさまざまなアプローチがありますが、近年のエビデンスレベルの高い情報(系統的レビュー・メタ分析)によれば、高強度のトレーニングを中心に、場合によってはプライオメトリックトレーニングを組み合わせる複合的なアプローチが有効だと考えられています。
今回は、一度に何十回も反復できるアプローチではなく、より重い重量(高強度)で行う筋トレのメリットを示す具体的なエビデンスを見ていきます。
Sedano, S., Marín, P. J., Cuadrado, G., & Redondo, J. C. (2013). Concurrent training in elite male runners: the influence of strength versus muscular endurance training on performance outcomes. Journal of strength and conditioning research, 27(9), 2433–2443. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e318280cc26
この研究は、3000-5000mを専門種目とし、最大酸素摂取量が65ml/kg/min以上のエリートランナーを対象に実施されています。
対象者は以下の3群に分けられました。
・EG群(エンデュランスオンリー群、6名)
・SG群(ストレングストレーニング群、6名)
・ESG群(エンデュランスストレングストレーニング群、6名)
介入期間は12週間で、3群ともに、週2回の頻度でストレングストレーニングを行いました。
具体的な内容は次の通りです。
トレーニング内容
■EG群
種目:
スクワット
ライイングレッグカール
カーフレイズ
レッグエクステンション
スクワット
ライイングレッグカール
カーフレイズ
レッグエクステンション(全てセラバンドを利用)
回数・セット数:25回、サーキット形式で3周(各周間に5分休息)
特徴:セラバンドを使った低強度のサーキット形式トレーニング
■SG群
種目:
バーベルスクワット+ハードル越え垂直ジャンプ
ライイングレッグカール+水平ジャンプ
シーティングカーフレイズ+ハードル越え垂直ジャンプ
レッグエクステンション+水平ジャンプ
回数・セット数:7回@70%1RM+ジャンプ10回、3セット(各セット間に5分休息)
特徴:重りを使った繰り返そうとすれば10回以上できる筋トレ種目の直後にジャンプ系の爆発的トレーニング
■ESG群
種目:
バーベルスクワット
ライイングレッグカール
シーテッドレッグカール
レッグエクステンション
回数・セット数:20回@40%1RM、3セット(各セット間に60秒休息)
特徴:重りを使いつつも、低強度高反復のトレーニング
記した通り、EG群(エンデュランスオンリー群)も実際には、サーキット形式のストレングストレーニングを実施しています。
結果を見ていきます。
ランニングエコノミーは3つの走速度で評価され、低速・中速(12km/h、14km/h)ではSG群とESG群で向上しました。
ただし、高速(16km/h)のランニングエコノミーはSG群のみ向上しました。
また、ランニングパフォーマンス(3km走)もSG群のみ改善が認められました。
これらの結果は、エリートランナーにおいて、一度に何十回も繰り返せる低強度の筋トレがパフォーマンス向上には適していない可能性を示唆しています。
さらに、介入直後に得られた効果は、その後5週間にわたって維持されました。
この5週間の期間中は、3群すべてがセラバンドを用いた低強度のサーキットトレーニング(EG群が介入期間中に実施したもの)を継続していました。
この結果を踏まえると、レースに向けてランニングトレーニングの負荷を充実させる前段階でストレングストレーニングを行い、その効果を獲得しておけば、レース直前期にはストレングストレーニングを控えても良い可能性があります。
余談ですが、70%1RMを「高強度」と表現することについては議論の余地があります。
個人的には「中強度」と呼ぶ方がより適切と考えています。
ただし、自重やセラバンドを用いた超低強度のストレングストレーニングををメインとするランナーが多いことを踏まえると、彼ら彼女らにとっては十分に「高強度」と感じられるため、対比としては妥当な表現とも言えます。