見出し画像

「筋力が高いとエコノミーが良い」 本当か?

持久系スポーツのパフォーマンスに関わる要因の1つに「エコノミー」があります。
エコノミーとは、特定の物理的強度(ランニングであれば速度、自転車であればワット数など)で運動した際に、消費される酸素摂取量やエネルギー消費量を指し、この数値が少ないほど経済性が高いと評価されます。

ランニング界隈でもサイクリング界隈でも、「筋力が高い人はエコノミーが良い」と言われることがあります。
また、持久系アスリートに対してストレングストレーニング(筋力トレーニング)を推奨する理由の1つに、「筋力が高まることでエコノミーが向上する」という説明がよく用いられます。
なお、スポーツの現場では「エコノミー」ではなく「効率」という言葉が使われることも多いです。

筋力が高いとエコノミーが優れるメカニズムとしてよく挙げられるのは、「筋力が高いことで、ある強度で運動を行った際の相対的な負担度が低くなる」ことや、「筋発揮時間が短縮され、1フェーズの中で力を発揮している時間が減り、リラックスできる時間が増える」といった主張です。

ストレングストレーニングはエコノミーを向上させる科学的に裏付けられたアプローチであることに間違いはありませんが、では筋力とエコノミーそのものに強い関係があるのでしょうか?

最近発表された論文では、この疑問に答えるため、155名の健常成人を対象に、筋力テストとサイクリング形式の漸増負荷試験を実施し、筋力とエコノミーとの関係を詳しく調べています。

研究で用いられた筋力の指標は、様々な重量を使ったスクワットを行わせ、重量-速度関係をもとに算出された平均推進速度(MPV)、平均推進パワー(MPP)、および最大挙上重量(1RM)です。

結果を見ると、確かに筋力はエコノミーに関連しており、筋力が高い人ほどエコノミーが良い傾向がありました。
ただし、その説明率はわずか1.3~6.2%(酸素コスト)であり、筋力そのものがエコノミーを決定づける要因であるとは言い難いものでした。

ちなみに、他の研究を眺めてみると、サイクリングエコノミーやランニングエコノミーに影響する要因は非常に多岐にわたっていて、ストレングストレーニングによって筋力が向上しても、エコノミーが向上しない結果を見つけることができ、筋力が向上しても、エコノミーが向上するとは限りません。

選手を動機付けさせるために、「筋力が高まるとエコノミーが良くなる」という説明をすること自体は大きな問題ではないと思いますが(科学的なニュアンスを大きくしない限り)、現実はそれほど単純ではないのが実際です。

本記事のタイトルに対する答えとしては、「一応、本当かもしれない」程度の温度感でしょうか。

Graphical representation of this article.


本記事は、「Feuerbacher, J. F., & Schumann, M. (2024). Associations of strength indices and cycling economy in young adults. Translational Exercise Biomedicine, https://doi.org/10.1515/teb-2024-0008」を改変したもので、CC BY 4.0 で使用されています。


いいなと思ったら応援しよう!

髙山 史徳/Fuminori Takayama
執筆家としての活動費に使わせていただきます。