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サッカー中2日はキツいのよ!

今夏開催されたパリ五輪の男子サッカーでは、日本代表はベスト8で敗退したものの、予選リーグでは3戦全勝し、一定の成果を残しました。
その予選リーグの戦いを振り返ると、7月24日のパラグアイ戦(5-0)、27日のマリ戦(1-0)、30日のイスラエル戦(1-0)と、中2日での試合が続きました。
もちろん、このような日程は日本代表に限ったことではなく、限られた期間で予選リーグやトーナメントが実施される五輪サッカーでは、出場する全てのチームが過密スケジュールに直面します。

さらに、こうした過密日程の問題は代表チームだけではありません。
Jリーグのトップクラブでは、普段のリーグでの戦いに加え、天皇杯、ルヴァンカップ、アジアチャンピオンズリーグと試合が重なり、過密スケジュールになることがあります。
今シーズン、アジアチャンピオンズリーグで準優勝に輝いた横浜F・マリノスは、海外遠征を含む過密スケジュールが続き、その問題がメディアでも取り上げられました。


横浜F・マリノスの一サポーターでもある私にとって、推しのチームの試合がたくさん見られるのは嬉しい反面、連戦が続くことで選手のパフォーマンスやコンディションが心配になります。
因果関係は複雑のため、そのせいとは言い切れませんが、過密スケジュールの最中やその後に怪我が増えたり、リーグの順位が振るわないと、怒りをどこかにぶつけたくなる気持ちにもなります。

そんな中、最近、筋ダメージに関する研究で著名な野坂教授(オーストラリア・Edith Cowan University)やChen教授(台湾・National Taiwan Normal University)が『Recovery from sport-induced muscle damage in relation to match-intervals in major events』という興味深いレポートを発表しました。
このレポートでは、2021年から2023年に開催されたチームスポーツやラケットスポーツのメジャー大会における試合間隔と、そういったスポーツにおける筋ダメージの回復に関する研究がレビューされています。

その内容を見ると、サッカーのワールドカップでは男子が平均4.1日、女子が4.9日、五輪では男子3.0日、女子3.1日という試合間隔が設けられていたそうです。
また、他のスポーツを見ると、ラグビーが最も長く(7-10日程度)、ソフトボールが最も短い(0-1日程度)ことも明らかになっています。

次に、各研究の結果を見ると、筋ダメージが著しいスポーツは、ラグビーやサッカーであったため、大会主催者は試合スケジュールを組む際に、筋ダメージからみた回復度合いをある程度考慮している模様でした。
ただし、一部のアスリート(結果や前後の文章などを踏まえると、サッカー選手が含まれます)は、前の試合から未回復状態で次の試合でプレーしている状況があると指摘されています。

実際、引用されたサッカー選手を対象とした研究結果を見ると、研究や評価指標によっては3日(72時間)以上、回復に時間がかかることも分かります。

各スポーツの筋ダメージからの回復期間(赤枠がサッカーを対象)
(一番右枠のTime of recoveryが回復に要した時間、右から2番目の枠のTime of the last measureが最後に測定した時間でそれまでに回復に至らなかった場合には一番右枠に「Not full recovery」と記載されている)
Nosaka, K., & Chen, T. C. (2024). Recovery from sport-induced muscle damage in relation to match-intervals in major events. Frontiers in sports and active living, 6, 1422986. https://doi.org/10.3389/fspor.2024.1422986  (CC BY 4.0) のTable 3(赤枠は私による)


やはり研究のエビデンスから見ても、中2日のような連戦がサッカー選手にとって厳しいことが分かります。

もちろん、選手やスタッフは筋ダメージの回復を促進するために、様々なリカバリー策を講じているのでしょうが、その効果には限界があります。
また、選手交代やスターティングメンバーの入れ替えなどの対策も行われますが、トップレベルのサッカーは強度が高く、試合に出れば多少なりともダメージを受けますし、どうしても替えの効かない、試合に出続ける選手はいます。

ところで、今回のパリ五輪において、当初主力として期待されていた久保建英選手は、本人、所属チームおよび代表チームとの話し合いの末に代表メンバーには入りませんでした。

久保選手はスペインの所属クラブで日々の試合がある他に、フル代表の主力メンバーでもあります(五輪の男子サッカーは、オーバーエイジ制度はあるものの、年代別代表です)。
また、これは久保選手に限ったことではありませんが、近年のフル代表の主力選手は多くが欧州のクラブに所属しており、試合数の多さに加え、アジアと欧州という時差を伴う長時間移動といった厳しいコンディション調整を強いられています。

余談になりますが、久保選手はJリーグではFC東京に長く所属していましたが、レンタル移籍でマリノスに来たこともあります(J1リーグ初得点はマリノスで記録。私はその試合を現地観戦しており、記憶に深く刻まれています)。

今回の件に限らず、彼の言動、行動から感じることが出来るメンタリティはユニークで格好良く、マリノスを離れた今でもずっと応援しています。
具体的に感じるユニークさは、ベンチコートの上にTシャツを着ていたことや、肩を脱臼した後の質問に対して、「肩はもう外れただけなので全然大丈夫です」と言ったりするところ(サッカーは基本的に脚でするスポーツであることを踏まえたコメント)。
あとは、この動画でも映っていますが、初ゴールを決めた後に、信頼して先発で使ってくれた当時の監督、アンジェ・ポステコグルー氏に抱き着きにいくところも素敵。

プロスポーツのサッカー選手において、ある程度の過密スケジュールは避けられないでしょうし、「休む権利がある」など、大きな声でストレートなことは言えないのでしょうが、サッカーに関わる全ての人たちが、より満足できる状況になれば良いなと心から思います。

この記事は、「Nosaka, K., & Chen, T. C. (2024). Recovery from sport-induced muscle damage in relation to match-intervals in major events. Frontiers in sports and active living, 6, 1422986. https://doi.org/10.3389/fspor.2024.1422986」をもとに作成したもので(私の個人的見解も含まれます)、CC BY 4.0 で使用されています。

※CC BY4.0
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/




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髙山 史徳/Fuminori Takayama
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