特別展よみがえる正倉院宝物 報道内覧会に行ってきた
こんにちは、ミュージアム部、部長のうちむらです。
7月4日から奈良国立博物館にて開催されています「御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ―再現模造にみる天平の技―」の報道機関向け内覧会に参加してきましたので、これから企画展に行こうと思っている方に、私の思う企画展の見どころをご紹介できればと思います。
再現模造にこだわった企画展の魅力
正倉院展自体はよく開催されている印象ですが、今回の企画展との違いは展示されているものが「再現模造」であることではないでしょうか。模造と聞くと「え〜本物じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この再現模造というのが、なかなか凄いのです。
さい‐げん【再現】
[名](スル)物事が再び現れること。また、再び現すこと。「事件の状況を再現する」
も‐ぞう〔‐ザウ〕【模造/×摸造】
の解説
[名](スル)本物に似せてつくること。また、そのもの。「撮影用に―した建物」「―品」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
再現と模造という言葉を調べるとそれぞれ以上のように書かれていますが、今回の企画展で展示されている作品はただの模造ではなく「再現模造」。見た目だけを似せて作るのが模造ですが、再現模造とは当時でも使われていた素材を使い、技法や構造までそっくりそのままもうひとつ作り上げるというものです。例えば琵琶は実際に奏でることができるように作っているといいます。では今回の企画展ではどのように展示されているのか見てみましょう。
螺鈿紫檀五絃琵琶の再現模造ができるまで
正倉院宝物といえばこの螺鈿紫檀五絃琵琶を思い浮かべる人も多いでしょう。本企画展でも再現模造としてその姿を見ることができます。原宝物は、光明皇后が東大寺大仏に献納した聖武天皇ゆかりの品で、献納目録である『国家珍宝帳』にも記載されています。
槽裏面の宝相華(ほうそうげ)、雲、鳥などの文様もとても美しいです。と、ここで終わってしまうのが模造品展示だとしたら、今回の再現模造展示の特徴はここからです。
再現模造ならではの展示スタイル
螺鈿紫檀五絃琵琶の装飾は貴重な素材を用い、類稀な職人の手による技術で作り上げられています。本企画展ではそれらの技術を余すことなく見ることができます。
螺鈿の原材料である夜光貝(ヤコウガイ)。白く輝くものを厳選して磨き上げ使用しているのだそう。
夜光貝は職人の手によって薄く削り出され、文様の形にパーツ出しされます。この段階でもなんとなく雲や宝相華など複雑な形状に加工されているのがわかりますね。
こちらは玳瑁(タイマイ)。ウミガメの甲羅を使っていますが、一部は甲羅の模様を生かし、一部は透明感が出るまで薄く加工し、文様を描き込んで使用します。
職人たちの技術が集まって再現された模造の数々
螺鈿紫檀五絃琵琶だけを見てみても、その工程の多さに驚きますが、これは一人の職人で作り上げているものではありません。夜光貝を加工する職人、玳瑁を加工する職人、文様を描く職人、絃を張る職人、琵琶のボディを作る職人など、それぞれが日本を代表する職人たちが集まって、この一面(琵琶は面という単位なのだそう)を作り上げています。
会場内には動画で各職人の仕事の様子を見ることができますので、こちらもぜひお楽しみください。
楽器だけではない模造宝物の数々
本企画展では、螺鈿紫檀五絃琵琶を代表とする楽器もたくさん展示されていますが、もちろんそれ以外の宝物も、素晴らしい職人たちの手によって当時このような姿であっただろう、きらびやかな姿を見せてくれています。
二彩鉢(にさいのはち)
表面に緑と白の釉薬を使った尖底の鉢で、原宝物は東大寺で仏前供養に使われていたそうです。ランダムに流れ落ちた釉薬の流れを筆で導くように描き、再現しているのだとか。
紺玉帯(こんぎょくのおび)
青い石はすべてラピスラズリ。四角や丸型などふんだんに使っておしゃれに仕上げていますね。昔はこの飾り部分の材質は身分によって細かく定められていたのだとか。
螺鈿箱(らでんのはこ)
紺球帯を収めるための箱だったといわれる円形の箱。本体は檜の一材で、内側には豪華な錦で内張りされています。
青斑石鱉合子(せいはんせきのべつごうす)
北斗七星が描かれたスッポンの蓋付き入れ物。用途不明なのだそうですが、星が描かれるとロマンがありますね。原宝物の素材である蛇紋岩(じゃもんがん)の中でも質感・色調の似たものを長野県で採取し用いているのだそう。
赤地唐花文錦(あかじからはなもんのにしき)
原宝物は寺院の内外を荘厳(しょうごん:豪華に飾ること)を目的とした錦で、奈良時代以降に見られる緯錦(ぬきにしき)とよばれる織り技法で作られていました。今すぐこの生地を使ってカバンや服をつくりたいくらいオシャレです。
天平宝物筆(てんぴょうほうもつふで)
仏像好きな私にとってすごくグッときたのがこちら。原宝物はなんと奈良の大仏開眼の儀式に使われた筆なのだそうです。ロマン~
当時の人々の想いと残していきたい文化
いかがでしたでしょうか。正倉院展に行ったことがある人にも、改めて推したい企画展であるということが伝わりましたら嬉しいです。
私は「再現模造」を展示する企画展で当時の姿を見ることにより、当時の人たちがなぜこのような物を作ろうと思ったのか。特別な素材を用いてデザインに込めた想いはどのようなものだったのか。それを知ることができるのではないかと思いました。
また内覧会冒頭に担当の方が、今このような企画展を行うのは、災害などの有事に備えて現宝物や作品をデータとして残していくということの大切さに気づくこと、またそこから当時の技術を知り、次世代へと残していく人を育てるということ。それはやがて、次の世代に文化を残すことになるとおっしゃっていました。
一朝一夕では作ることのできない価値や文化を護り続ける人たちに感謝の気持ちでいっぱいです。
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