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西洋美術世界へいざなう1000の扉。大塚国際美術館をおすすめしたい5つの理由
橋を渡り、穏やかな海とうずしおを越えれば、緑豊かな山が広がる。そこにあらわれるのは広大な美術館。その中には、1000枚の陶板に写しとられた世界の名画が眠る――。
こんなふうに語れば、まるでファンタジーの導入みたいに聞こえるかもしれません。でも、本当に物語のように壮大だと思ったんです! 世界に類を見ないミュージアム、徳島県鳴門市・大塚国際美術館にミュージアム部で行ってきました。「おすすめしたい5つの理由」とともに、私・部員なりちゃんがレポートをお届けします。
写真は、大塚国際美術館の展示作品を撮影したものです。
おすすめ1.「陶板名画」の作品再現度
大塚国際美術館に展示されているのは、すべてが陶板で原寸大に再現した名画。名画が焼き物で作られていると聞くと「本物とはちがうんじゃないか?」と思われる方もいるかもしれません。訪問前は私もその一人でした。しかし、陶板名画の実物を見て、そのクオリティに驚き!
世界中の美術作品権利者に許可を取り、現地で何千枚もの写真を撮影。特殊技術で再現し、開発した20,000色以上の釉薬の中から色を選んで、原画とほとんど変わらない色味を再現しているそう。
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▼質感再現
こだわりたっぷりの質感再現。たとえば、オリジナルのヒビ割れや、一部漆喰が盛り上がっているディテールまで再現しているそうです。
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ゴッホ作品のように絵の具の盛り上がりが特殊なものは、人の手で釉薬を盛り上げて焼く作業を繰り返して再現しているそう。
▼もちろん、サイズも再現
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横幅が10メートル近くもある油彩画。目の前に立つと圧倒されてしまいます!
この大きさには理由が。ナポレオンが、自らの栄光と権威をアピールするイメージ戦略のために、理想化と演出たっぷりにジャック=ルイ・ダヴィッドに描かせた作品なのです。まるで古代神話のワンシーンかのように、自らを英雄として端正・壮大に描かせました(新古典主義)。
このように「作品サイズ」が作品理解のキーポイントのひとつになるケースもありますが、大きさも忠実に再現されているので臨場感たっぷりに楽しむことができます。
おすすめ2.現地に来たみたいな環境展示
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古代遺跡や礼拝堂壁画も、環境空間ごとそのまま再現!まるで現地のような臨場感で楽しめます。
イタリア・パドヴァにあるスクロヴェーニ礼拝堂は、フレスコ画の保護のため、訪問は完全予約制・鑑賞時間は15~20分と時間制限があります。人生で一度は訪問したい憧れの場所ですが、まずは大塚国際美術館で予行演習!星が降るかのような天井も、ストーリー仕立てのジョットの壁画も、心ゆくまで堪能できます。
原画は、展示環境に最大の注意をはらっていても、変色・劣化を避けられません。また、戦争や事件で失われた名画がこの世にいくつあることでしょう……。1,300度の高温で焼き上げた美術陶板は、紙やキャンバス、土壁といったメディウムに比べて経年劣化がしづらく、2,000年経っても制作当時の姿を保ち、後世に伝えてくれるそう。まるでタイムカプセルのようです。
おすすめ3.消失作品の再現保存
「作品の姿を未来に残してくれる」功績をお伝えしましたが、実際にその恩恵を受けた例をご紹介します。
▼ゴッホの幻の自画像
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ゴッホ「タラスコンへの道を行く画家」
画材やイーゼルを抱えて制作に向かう麦わら帽子のゴッホ。晴天や濃い影に南仏の夏を感じる一方、画家の足取りはどこかうきうきと楽しげです。
こちらのゴッホ作品、はじめてご覧になる方も多いのではないでしょうか? じつは、元々は旧東ドイツのカイザー・フリードリッヒ美術館に所蔵されていたものの、1945年に消失してしまった幻の作品です。
ゴッホはパリ時代には30点近い自画像を残していますが、アルル以降の後期肖像画は珍しく、さらに全身自画像といえばこの作品だけなのだそう。陶板名画によって再現・記録保存してくれるおかげで、原画が現存しない作品も鑑賞することができます。
▼ゴッホの「ヒマワリ」をめぐる物語
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ゴッホといえば「ヒマワリ」が有名ですが、世界各地に7枚の「ヒマワリ」が点在することはご存じでしょうか。アルル時代に、ヒマワリの花が咲かない季節にはセルフコピーもしながら、すべてゴッホが描いた作品です。
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すべて陶板名画、大塚国際美術館所蔵 左上から順に
1. ヒマワリ ゴッホ、個人蔵、1888年
2. ヒマワリ ゴッホ、1945年兵庫県芦屋市にて焼失、1888年
3. ヒマワリ ゴッホ、ノイエ・ピナコテーク、ドイツ、1888年
4. ヒマワリ ゴッホ、ナショナル・ギャラリー、イギリス、1888年
5. ヒマワリ ゴッホ、SOMPO美術館、日本、1889年
6.ヒマワリ ゴッホ、フィラデルフィア美術館、アメリカ、1889年
7.ヒマワリ ゴッホ、ゴッホ美術館、オランダ、1889年
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ゴッホ「ヒマワリ」1945年焼失
第二次世界大戦の折に焼失し、二度と見ることができない幻の「ヒマワリ」・通称「芦屋のヒマワリ」も、大塚国際美術館が陶板名画で再現。こちらは木製フレームで飾られており、その内側をゴッホ自らオレンジ色で塗っている…といったディテールまで間近で観察できます。ミュージアム部長も思わず見入っていました。
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ゴッホ「ヒマワリ」ゴッホ美術館、1889年
さらに、7枚目の「ヒマワリ」は、所蔵館であるゴッホ美術館が「今後貸出不可、門外不出」を宣言しています。オランダ・アムステルダムまで足を運ばない限り、鑑賞することができないレアな「ヒマワリ」です。
ゴッホの7枚の「ヒマワリ」を一望のもとに眺められる……そんな夢のように贅沢な空間を、大塚国際美術館で堪能できます。
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あなたはどの「ヒマワリ」が好きですか?
おすすめ4.西洋美術史を一望!楽しくて効果抜群の学びの場
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パルミジャニーノ「凸面鏡の自画像」1524年頃
凸面板のゆがみを描いて見せた、技巧派のマニエリスム期の作品も間近で鑑賞。
ルネサンス絵画との明らかなちがいを実感できそうです。
美術作品を「みる力」のステップアップを応援してくれる「美術検定」。検定試験では、東西の美術史の知識が問われます。アートファンの方には、合格を目指している方も多いのではないでしょうか? 私も美術検定1級・2級を取得しましたが、知識が増えるほどに見えてくるものが増えてくるので、学びの目標としてとってもおすすめです。
やはり、アートは見てこそのもの。鑑賞体験から得られる情報はテキストの比ではありません。重要な西洋画が時代ごとに見られるうえ、充実のキャプション情報とともに、サイズ感・技法までを間近で体感できます。6つの時代と100作品を解説する、豪華な音声ガイドもレンタルOK。美術検定など、西洋美術史を学ぶ場としてうってつけだと感じました。
おすすめ5.きっと好きな作品が見つかります
一度に1,000枚もの西洋絵画が見られる空間!きっと「素敵だな」と感じる作品が見つかるはず。今回の訪問でのみんなのお気に入りを紹介します。
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マルティーニ、シモーネ「受胎告知と二聖人」ウフィツィ美術館、1333年
「受胎告知」のマリアにはさまざまな表象がありますが、聖俗を兼ね備えたような……明らかに自我を持っているようなこのマリアさまが私は好きです。
大天使ガブリエルからは「めでたし」と祝福する黄金文字が流れ出ますが(この表現も漫画的でおもしろいですよね)、マリアさまは眉間を寄せてへの字口。この表情と身振りからあふれる訝しみや不信感といったら。「人間の時代」ルネサンスの幕開けを感じます。
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ルソー「田舎の結婚式」オランジュリー美術館、1904-05年
ミュージアム部長は、アンリ・ルソーが好きだそう。今回も「あ、ルソー作品がある!」とにこにこしていました。独特のプリミティブな味わいがたまりません。楽しいルソーの解説は、山田五郎さんのYoutube動画「オトナの教養講座」がおもしろくておすすめです。
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シスレー「ルーヴシエンヌの雪」オルセー美術館、1878年
学芸員さんは、こちらのシスレーの雪景色がお気に入りだと教えてくださいました。雪は微妙な色調で描き分けられており、日常的な光景を抒情たっぷりに切り取った、一篇の小説のような素敵な作品だと思いました。同時に、華やかな大型作品も多数ある中でこちらを選ばれたところに、静かな美しいまなざしを勝手に感じてきゅんとしました。
「どの作品が気に入った?」「これもしかして好きかも?」など、たくさんの中から好みを一緒に探すのも楽しい鑑賞になりそうです。
大塚国際美術館さんへぜひお運びください
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大塚国際美術館
〒772-0053 徳島県鳴門市鳴門町 鳴門公園内
■開館時間:9時30分~17時まで
■休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
※1月は連続休館あり、その他特別休館あり、8月無休
※最新の情報は公式HPをご確認ください
アクセスについて、大阪・神戸からは海部交通さんがおそらく最安かな?と思います。たとえば、大阪梅田8:00発→美術館10:35着で片道1,900円~など。
公式サイトのアクセスページもこちらに貼っておきます。
なお、美術館内は地下3階~地上2階までの5フロア。その合計は約10,000坪、約4kmもの鑑賞ルートにもなる広大な空間! 「密」の心配はありませんが、丸一日の鑑賞時間と、履き慣れた靴を用意されるのをおすすめします。
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(6~9月頃には睡蓮が見頃だそうです)
大塚国際美術館の初代館長さまは、「ここで陶板作品を見た学生さんが、新婚旅行先の海外で実物を見てくれたら」とお話されていたそう。本当にそのとおり、ここにあるおよそ1,000枚の陶板名画は、西洋美術の世界へ、世界旅行へ、あなたを誘ってくれる無限の扉だと感じます。
海外旅行もなかなかかなわない今の時期ですが、未来の運命の絵画と出会えるきっかけのミュージアム、大塚国際美術館をぜひ訪問されてはいかがでしょうか。
以上、ミュージアム部からのおすすめレポートでした♪
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