天使のふしぎみかん
空の鳥は、蒔かず刈らず倉に収めず、見えない力を信じきって生きています。
なんの心配もいりません。
春には、咲きこぼれる花の蜜。
夏には、銀色にひかる朝露のしずく。
秋には、なにもかも忘れてしまってうっとり熟れた赤い柿。
めぐみは天から惜しみなくもたらされます。
けれど冬はこまりもの。
そこらの南天の実をついばんだら、もう食べるものがありません。
だからわたしは、ささやかな庭にみかんを置いて待ちました。
ひーよひーよ
金切声もかまびすしく、やってきたのはひよどりです。
よほどはらぺこだったのか、むさぼるようにつつきまわすと、みかんはあらかた皮になります。
ひよどりのあと、めじろのつがいがおっかなびっくり、枝から枝へ飛びうつって、ようやくみかんにありつきます。
ひよどりの食べのこしを小さなくちばしでせせるかわいらしさったら、ありません。
こうして鳥とわたしは結びついたのです。
みかんをたやさぬよう、わたしは買いにでかけます。
ふたつに切ってならべては、陰からそっと見守ります。
なにも知らぬ鳥たちは、時おりふしぎそうに小首をかしげ、なぜかあらわれるみかんを一心に食べています。
わたしは見返りを求めません。ひたすら与えつづけます。うれしそうな鳥のさえずり。与えることはよろこびとなり、気がついたら、わたしは鳥を愛していました。
そしてふと、神を思ったのです。
こんなふうに――
鳥よ、ここへ飛んでおいで
お前の目にはわたしは見えない
けれどわたしはかたわらにいる
無条件に愛するお前に
必要なものを与えよう
奇蹟の果実があらわれたなら
さあ、おそれずに受けとって
また大空をかけりゆけ
鳥は、神とわたしとの関係を照らしだす天使なのかもしれません。