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エッセイストになるために必要なこと。

書いて働きたい人のための講座「京都ライター塾」を2020年から主宰している。そうすると、いろんな「書きたい人」のお悩みを聞くことになる。

いろいろ相談にのっていると、やはりライターになって、ゆくゆくはエッセイストを目指したいという人が一定数いる。noteを書いている人の中にもそういう人は多いかもしれない。

私はフリーライターを18年しているけれど、エッセイの仕事はそれほど多くはない。なので、エッセイストと肩書きに入れていたけど、最近はもう書くのをやめようかなぁと思って、Twitterのプロフィールは「ライター、ときどき大学講師」に変更した。

ライターを始めた当初、取材に行って原稿を書くのがあまりに大変で、だからエッセイストはいいなと思っていた。

エッセイを書くのって、取材に行かなくていいし、自分の身のまわりに起きたいろいろなことを、おもしろおかしく書けばいいのだから、楽でいいな、と。

その後、仕事でときどきエッセイを書かせてもらうようになって気がついたのだが、エッセイを書くより取材に行って記事を書く方がよっぽど楽だった。エッセイのなんたるかも知らずに、連載の仕事が舞い込んできて、毎月泣きながら書いていたけど、このときもまだエッセイが何なのか全く分かっていなかった。

そして、ライターになって数年経った頃、「私が本当になりたかったのは、ライターじゃなくエッセイストだったのか」と気づいた瞬間がある。

そんなことも気がつかず、無駄にライターを何年もして、時間をロスしてしまった。最初からエッセイストを目指しておけば、こんな遠回りをすることもなかったかもしれないと後悔をした。

そこから、小説家の友だち・寒竹泉美さんがやっているエッセイ講座に通い、ライターの大先輩・さとゆみさんからライティングを学び、ちょっとずつエッセイの何たるかが分かってきた(と信じている)。

そしたら、エッセイは自分のことを書くのだから、主観的に書ければそれでいいと思っていたが、そうではなかった。全然違う。商業ライター的視点や、客観的に書く技術も求められる。

小説家の朝井リョウ著「発注いただきました」を読んでからは、それが決定打となった。ライターとしての書く技術は、エッセイストとして書くときにも絶対に必要なことなんだな、これまでのライターとしてやってきたことは無駄じゃなかったんだなと分かって、うれしかった。

この本では、朝井さんがいろんな媒体や企業から、短編小説やエッセイを書いてくださいと依頼されたその裏側と、依頼されて書いた実際の小説&エッセイが載っている。

エッセイがどんな風に依頼されて、作家はそれにどう応えるのか。私の知りたかった仕事の裏側が全て書かれている。ありがたい。ここまであけすけに書いてもいいのだろうか。

小説やエッセイは、作家がそのときに書きたいことを、何でも好きに書いていると思っていた(そんなわけない)。

それはたぶん、林真理子さんのエッセイをよく読んでいたから勘違いしたのだと思う。林さんのエッセイはいつ読んでも、おいしいものを誰かと食べた話、友だちと遊んだ話、ダイエットの話、買い物の話と、取るに足らない(ように見える)話が多いから。でもそれはあの林真理子さんが書くから面白いのである。江角悠子が書いたとて誰が興味を持つのか。知らんがなで終わる。

あの地位まで上り詰めた作家さんならば、どんなエッセイを書いても許されるのだろうが、そんなのは本当に一握り。

ある媒体が、クライアントさんが、誰かに「エッセイを書いてください」と依頼するとき、そこには必ず意図がある。

例えば、朝井リョウさんに、お酒の新聞広告に載せるエッセイ(もしくは短編小説)を書いてくださいと依頼があった場合。クライアントの意図はこうだ。

朝井さんが書いたエッセイを読んで読者に「お酒が飲みたい」となってほしい。あわよくば、ここで紹介しているお酒を買ってほしい。

この一択である。

なので、朝井さんは、読者がお酒が飲みたくなるようなエッセイを書かねばならない。クライアントの意図を汲んで、相手のほしい文章を書く。エッセイだからと言って、書きたいことを好きに書いているわけではないのだ。

自分の体験から、または誰かに聞いたエピソードからお酒にまつわるエッセイを書く。しかも、クライアントが売りたいお酒に絡めなければいけない。日本酒の広告なのに、ワインのことを書くとちょっと違うだろう。紹介していないお酒が売れたのでは意味がない(お酒のメーカーで、日本酒の他にワインも取り扱いがあるなら良いのかもしれない)

と、あまりに当然のことに、ようやく私は気がついたのだった。

クライアントがほしい記事を書く。読者が読みたい記事を書く。これはふだん商業ライターがしていることだ。「エッセイ」なのか「インタビュー記事」なのか、アウトプットするカタチが違うだけで、やっていることは商業ライターとほぼ変わらないではないか。

ならば、私は今すぐにでもエッセイストと名乗ってもいいかもしれないが、いやまだまだ…と思うのは、もう一つ、エッセイストになるために絶対に必要な要素が足りていないから。それは

【人として魅力があるかどうか】

これに尽きるのではないかと思う。その人の文章を読んでみたい!!!と、(なるべく)多くの人に思ってもらわなければ、エッセイストとして活動するのは難しい。

エッセイの場合、書いているその人に魅力を感じるからこそ、私は読みたいと思う。逆に、知らない人のエッセイを読んだ場合、エッセイからその人の魅力が溢れていてファンになったりする。エッセイに必要なのは「書く人の魅力」だ。

文章にはどうしても「その人」がにじみ出てしまう。だから、いい文章を書きたいなら、まずいい人であらねば。カッコいい文章が書きたいなら、カッコいい人でないといけないし(外見の話ではない)、優しい文章が書きたいなら、優しい人でないと書けない。

ならば、人を引きつけて止まない魅力はどうやったら身に付くのか?

それが問題だ。

朝井リョウ著「発注いただきました」は、エッセイを書いて稼ぎたいと思っている人なら、ぜひ読んでおきたい。けっこう分厚いけど、テンポよくサクサク読める。

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京都在住エッセイスト・ライター、ときどき大学講師 江角悠子
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