解説/ 「インテグラル理論」(基本編)
〈目次〉
1.インテグラル理論とは
(1)インテグラル理論が注目されている理由
(2)インテグラル理論を構成する要素
2.インテグラル理論の5要素
(1)象限
(2)レベル
(3)ステート
(4)タイプ
(5)ライン
3.インテグラル理論の事業への応用例
(1)包括的な状況把握
(2)抱えている課題の明確化
4.まとめ
1.インテグラル理論とは
(1)インテグラル理論が注目されている理由
インテグラル理論は、アメリカの思想家でありトランスパーソナル心理学者でもあるはケン・ウィルバーによって提唱されました。
インテグラルとは「統合的」という意味であり、自然科学・社会科学・人文学といったあらゆる学問を統合し、包括的に考察しようという試みから生また理論です。
多様性が重視される現代社会は複雑化が進んでおり、従来の学問・思想を包括的に捉える視座が待ち望まれてきました。
記憶に新しいところでは、ベストセラーとなった『ティール組織』が挙げられます。
旧来型の組織とは一線を画す新しい組織のあり方を論じた同著は、インテグラル理論がベースとなっているのです。
こうした包括的な視座に立つ理論であることから、インテグラル理論は「統合哲学」とも呼ばれています。
(2)インテグラル理論を構成する要素
インテグラル理論は、しばしば「AQAL」のフレームワークとして示されます。
AQALとは、次の5つの要素を包括するという意味です。
・象限
・レベル
・ライン
・ステート
・タイプ
つまり、これらの要素への理解を深めることがインテグラル理論を理解する上で重要なポイントとなります。
そこで、各要素がどのような理論にもとづいているのか、解説いたします。
2.インテグラル理論の5要素
インテグラル理論を構成する5つの要素について、それぞれポイントを確認していきます。
特定の要素に注目するのではなく、全ての要素を包括的に捉えることが大切です。
(1)象限に
象限とは、私たちが物事を捉えるときの視点を表しています。
象限は4つの領域に分けられることから、一般的に「4象限」と呼ばれます。
ポイントとして、私たちは常に4象限のうちいずれかの視点に立っているという点が挙げられます。
自分がどの視点で物事を捉えているかを認識することにより、自身の先入観や思考の偏りに気づきやすくなるのです。
(2)レベル
インテグラル理論では、人は成長していくものと捉えています。
子どもが大人へと成長していくように、物事の解釈は成人してからも成長を続けるのです。
この成長過程の発達モデルを、インテグラル理論では「色」で表します。
■インテグラル理論における発達段階のレベル
発達段階 色 意識段階の例
利己的段階 レッド 衝動・自由
神話的段階 ブルー 信念・忠誠
合理的段階 オレンジ 分析・戦略
多元的段階 グリーン 価値・自己探究
統合的段階 イエロー 再構築・心身統合
イエローは「ティール」とも呼ばれ、前述した『ティール組織』の由来となっています。
これらのレベルはスパイラル状になっており、分断されているわけではありません。
実際には、神話的段階と合理的段階の中間に位置するといった状態もあり得ます。
(3)ステート
前に挙げたレベルが意識段階であるのに対して、ステートは「意識状態」を表します。
意識状態は流動的であり、常に変化し続けています。
インテグラル理論では、意識状態を「自然な意識状態」と「変性意識状態」に分類します。
・自然な意識状態:起きている・夢を見ている・深い眠りについている状態
・変性意識状態:酩酊・熱狂・瞑想・祈りなど通常とは異なる意識状態
私たちの意識はこれらのうち1つに留まり続けることはなく、同時に複数の状態となることもありません。
また、目覚めている状態だけが現実とも限らないと捉えるのがインテグラル理論の特徴です。
意識段階を発達させていくだけでなく、意識の「状態」も探究していく必要性を説いています。
(4)タイプ
インテグラル理論は、人の認知や発達段階に優劣をつけることを目的としていません。
同じ発達段階にある人でも、実業界で成功を手にする人もいれば、自身の内面を探究し幸福を手にする人もいるのです。
人の性格や行動類型にはさまざまなタイプがあり、多様性や差異を加味して捉えることの重要性を説いています。
性格や行動類型を把握し、その人の強みや弱みを知るきっかけを与えてくれるのがタイプの考え方といえます。
(5)ライン
ラインとは、人の多様な能力を分類して捉える考え方です。
レベルはその人の中核をなす特性を表しており、個々人の能力や資質全体を明らかにするわけではありません。
自我や感情、言語、道徳、身体、政治、科学といった多様な能力領域において、強みもあれば弱みもあるのが実情です。
そのため、レベルとラインを組み合わせ、それぞれの能力領域を複合的な視点で捉える必要があります。
文章を書くのが苦手でも対人能力が優れている人がいます。
このように人には得意・不得意があり、能力や発達段階は「まだら状」であることを説いているのです。
3.インテグラル理論の事業への応用例
以降、例として3つの活用法をご紹介いたします。
(1)包括的な状況把握
事業の状況は常に変化しています。
先入観なく実態を把握し、適切な判断を下していくには包括的な状況把握が必要です。
表向きの数値などから把握できる経営状態だけでなく、事業主自身やスタッフの視点も含めて検証する必要があるでしょう。
このとき、インテグラル理論の4象限の考え方が役立ちます。
視点に見落としや偏りがないかをチェックする際、4象限の捉え方が生かせるはずです。
(2)抱えている課題の明確化
事業主自身の行動や考え方の傾向を知る上で、レベルとラインの考え方が役立ちます。
自身の得意・不得意や強み・弱みを認識することにより、強化が必要な点が浮き彫りになるからです。
また、スタッフを雇っているケースでは、スタッフの適性を見極める際にも活用できるでしょう。
成長が見込める特性や負担がかかりやすい業務を見極め、より適した仕事を任せやすくなります。
(3)リーダーシップの最大化
事業主自身や雇っているスタッフの能力を発揮するには、リーダーシップを最大化できるかどうかがカギを握ります。
事業全体を俯瞰的に捉えるにあたって、認知レベルにおけるグリーンやイエローの視点が求められるでしょう。
発達モデルを可視化したインテグラル理論を知ることで、より高い認知レベルを意識しやすくなるはずです。
すぐに高い認知レベルを実現できなくても、さらに高次の認知レベルが存在すると知っていることに意義があるのです。
4.まとめ
インテグラル理論は「統合哲学」とも呼ばれるように、多種多様な学問の要素を取り入れた包括的な理論です。
今回、解説してきたインテグラル理論のポイントを参考に、取り入れられるところから事業に生かしていく、という進め方でよいと思いますり
これまでになかった視点を得られ、事業に役立つ場面が出てくるはずです。
参照元: 「SEMINARS」Webサイト
以上