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【3分で読める小説/自閉症/翼の見つけ方】

【翼の見つけ方】


第1章: 翔の幼少期と孤立


翔は幼い頃から、周囲とのコミュニケーションが苦手で、学校でも孤立していた。彼の唯一の心の拠り所は、母親が昔使っていた古いピアノだった。

毎日家に帰ると、翔はピアノの前に座り、音楽に没頭することで自分の世界に逃避していた。

学校でのいじめや家庭での孤独感を抱えながらも、音楽だけが彼を支えていた。

発達障害である自閉スペクトラム症(ASD)の特性で苦しむ翔は、学校ではマルチタスクができず、教師の指示を理解できないことが多かった。

視覚的に物事を理解するため、翔は絵カードを使って日常の指示を受けていた。しかし、それでも周囲の理解を得ることは難しかった。

翔の両親は、彼をさまざまな児童発達支援事業所に通わせたが、期待するような成長は見られなかった。

ある日、児童発達支援事業所で職員が「あの子は難しいわね。将来どうなるのかしら」と言っているのを耳にした母親は、怒りに駆られてその場を辞める決意をした。

音に敏感な翔はイヤーマフを常に着用していたが、ある日YouTubeでピアノの演奏を聴いた瞬間、心が落ち着くのを感じた。

その後、音楽教室に通い始めた翔は、絶対音感を持ち、1度聴いた曲をピアノで完璧に弾くことができることに気づいた。彼の笑顔を見て、両親は心から喜んだ。



第2章: 両親の回想


翔の両親は、彼が言葉の発達や理解が周りの子どもよりも遅れていることに気づき、不安を感じていた。

母親はインターネットや本を読み漁り、翔が自閉症ではないかと考え始めた。

心配になった母親は病院に連れて行き、相談することを決意した。

精神科医の「あなたの子どもは自閉症です」という一言に、母親は崩れ落ちた。

「この子の将来はどうなるのか」と毎日心配し、苦しんできたが、翔の笑顔が彼らを前に進ませた。

母親は翔の幼少期を振り返りながら、彼がどれほどの困難を乗り越えてきたかを思い出していた。

「この子は特別な子なんだ」と、彼女は心の中で強く思った。




第3章: 陽菜との出会いと成長


ある日、町に新しく音楽教師として陽菜が赴任してくる。陽菜は若く、情熱的で、生徒たちに音楽の楽しさを伝えることに喜びを感じていた。

彼女は初めて翔の演奏を聞いたとき、その才能に驚き、彼が持つ潜在的な可能性を感じ取る。陽菜は翔に近づき、彼を支えることを決意する。

陽菜は、自閉症のいとこと過ごした過去を思い出していた。いとこは自閉症だからという理由であまり外出させてもらえず、まるで鳥籠の中で飼われている鳥のように閉じ込められていた。

絵を描くことが上手かった彼は、その才能を両親に認めてもらえなかった。ある日、彼から「生まれてきてごめんなさい」というLINEのメッセージを受け取った陽菜は、その後彼の姿を見ることはなかった。

この経験が皮肉にも、陽菜にとって翔の才能を見つけ、彼を支える原動力となった。陽菜はいち早く翔の翼を見つけることができたのだ。

陽菜と翔の会話は、彼の成長に欠かせない要素となっていた。

彼がピアノを弾くたびに、陽菜は「素晴らしいわ、翔。あなたの音楽には心がある」と褒めた。

「でも、僕には何もできない…」とつぶやく翔に、陽菜は「そんなことないわ。あなたには音楽という翼があるのよ。それを使って自由に飛び立って」と励ました。

翔は陽菜の言葉に少しずつ自信を取り戻していった。



第4章: コンクールへの挑戦と葛藤


コンクールへの参加を決意した翔だが、自閉症の特性から未来の出来事を想像することが苦手で、不安と恐怖に包まれていた。

「陽菜先生、僕には無理かもしれない。みんなの前で演奏するなんて、想像するだけで怖いんだ。」翔は肩をすぼめ、視線を床に落とした。

陽菜は優しく翔の手を握り、「怖がらなくていいの。大事なのは、君の音楽がどれだけ素晴らしいかを伝えること。

私も君を信じているよ。」その言葉に、翔の不安は少しずつ和らいでいった。

そんな中、翔の学校には不良として知られる和也がいた。

和也は最初、翔に対して冷たい態度を取っていた。

「障害者がコンクールに出るのかよ」と嘲笑うような口調で言ったが、放課後、音楽室で毎日練習する翔の姿を目にし、その真剣さとピアノのスキルに驚かされた。

和也は陰ながら翔を応援するようになった。

ある日、和也は家で発声練習をしていると、母親に「うるさいよ」と怒られたが、「俺も頑張れるかな」と手のひらをギュッと握りしめ自分に言い聞かせた。

彼は幼少期から問題児とされ、誰からも理解されずに孤独だった。

優秀な両親に勉強も運動もあまり出来ないことを否定され続け、誰かに認めて貰うために髪を金色に染めたり、悪ふざけをして注目を集めていた。

いつしか、翔を自分と重ねていた。かつての自分を見ているようで苦しかったのだ。

でも今は-
翔がいじめられていたとき、和也は「文句があんなら俺に言え」といじめっ子たちに向かって叫び、その真っ直ぐな目を見て翔は胸が熱くなった。

翔と和也の友情は少しずつ育まれていった。翔が練習に打ち込む姿を見て、和也は「翔、お前はすごいよ。俺ももっと頑張る」と心の中で誓った。



第5章: クライマックス


コンクールの日がやってきた。

翔はステージに立ち、緊張で手が震えていた。観客の視線が彼に集まり、恐怖が再び押し寄せてきた。

ステージの袖から陽菜が微笑みかけ、「大丈夫、君ならできる。君の音楽を信じて」と言った。その言葉に翔は深く息を吸い込み、心を落ち着けた。

和也も一緒に舞台に立っていた。

二人は何度も練習を重ね、和也が歌い、翔が演奏するパフォーマンスを完璧に仕上げていた。和也は横で「翔、君ならできるよ」と小さくつぶやいた。

演奏前、翔は感じた。

言葉ではなく、陽菜先生や和也君、そして両親の愛情の糸が彼の心に絡みついているのを。

この糸が彼の音楽そのものなのだと理解した。

陽菜先生が言っていた「君には翼がある。飛び立って」という言葉を思い出し、翔は静かに演奏を始めた。

最初の音が響き渡ると、翔は音楽の世界に没頭していった。

彼の指先から紡ぎ出されるメロディは、まるで魂そのものだった。

和也の歌声がその音楽に乗り、二人のパフォーマンスは一つの完璧な調和を生み出していた。

観客も審査員も、息を飲んでその演奏に耳を傾けた。翔の音楽は、彼自身の苦しみや喜び、全ての感情を伝えるものだった。

演奏と歌が終わると、会場は一瞬の静寂に包まれ、その後、大きな拍手と歓声が湧き上がった。

翔と和也は互いに目を合わせ、微笑みながら深いお辞儀をした。

翔は、自分が飛び立つための翼を見つけたことを実感し、和也と共にその瞬間を共有したことに感謝した。



第6章: 新たな未来へ


コンクールでの成功を経て、翔は音楽の道を歩み続けることを決意した。


彼は新たな目標に向かって歩き出した。音楽を通じて得た自信と成長を胸に、翔は未来へと進んでいく。

和也もまた、自分の成長を実感し、声楽の世界で新たな目標を見つけることができた。二人の友情はさらに深まり、お互いに支え合う存在となった。

「翔、お前の演奏、本当に感動したよ」と和也が笑顔で言うと、翔も「君がいてくれて、本当に心強かった」とぎこちない笑顔で答えた。

陽菜の支えと和也の友情が、翔にとって大きな力となった。
彼らの絆は、困難を乗り越え、希望を見つけるための重要な要素だった。翔は新たな未来へ向けて飛び立ち、その翼を広げ続けていく。



翔の自閉症への対策


  1. 視覚的サポートの活用:
    翔は日常生活や学校での活動において、視覚的なスケジュールや絵カードを活用している。これにより、彼は自分の行動や予定を明確に把握し、ストレスを軽減することができる。音楽の練習スケジュールも視覚的に整理し、練習の内容を細かく計画することで、効果的に取り組んでいる。

  2. 感覚過敏への対策:
    翔は音に敏感で、特に大きな音や突然の音に対して過敏である。そのため、イヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホンを使用して、自分にとって快適な環境を作り出している。また、音楽を通じて自分の感覚を調整し、リラックスする方法を学んでいる。

  3. 自己表現の手段としての音楽:
    翔は音楽を通じて自分の感情や思いを表現することの重要性を学んだ。言葉ではうまく伝えられない感情を音楽に乗せて表現することで、内なるストレスや不安を解消している。音楽は彼にとって、自己肯定感を高める大切な手段となっている。

  4. 支援者との信頼関係:
    翔は陽菜や和也、両親との強い信頼関係を築くことで、自閉症に伴う困難を乗り越えている。陽菜の支えや和也との友情が、彼にとって大きな力となり、自分の特性を受け入れる手助けとなっている。信頼できる支援者の存在は、翔にとって不可欠な要素だ。

  5. ストレス管理とリラクゼーション:
    翔はストレスを感じたときにリラックスする方法をいくつか身につけている。深呼吸や瞑想、自然の中を散歩することなどが彼にとって有効な手段だ。また、音楽を聴くことで心を落ち着けることができる。こうしたリラクゼーションの方法を取り入れることで、日常生活の中でのストレスを管理している。

  6. 自己理解とセルフアドボカシー:
    翔は自分の特性や困難を理解し、自分に必要な支援を求めることの重要性を学んでいる。学校や家庭での支援が必要なときには、自分から積極的に助けを求めるようになった。セルフアドボカシーのスキルは、翔が自立していく上で重要な役割を果たしている。



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